姫 三太夫でござりまするぞ!

【第三幕】










 この物語は、事実に基づき(?)ながらも、大胆かつ壮大に時空を超えた歴史ワールドなのである。
 笑い、時には怒り、また時には涙なくしては読めぬという空前絶後、絶体絶命、以心伝心のパラレル・ショートストーリーともいえる!
   登場人物
    姫 
(幻舟)
   三太夫
(パラワー人)


姫! 三太夫でございますぞ!」


三太夫か、今日はなにやら手土産のようなものを持ってきておるの。その方にしては珍しいことじゃな」


姫! これは肥後熊本藩の天草地方から取り寄せたデコポンというミカンでございますぞ! 非常に美味で。是非ご賞味くだされ!」


ふむ。上のふたの部分が盛り上がって面白い形をしておるのう。どれ、一つ。ふむ、ふむ……。これは美味じゃ」


ところで、姫! 美味しいものを食べておられる時にこんな話をして恐縮ですが、三太夫は最近、北朝鮮の振る舞いをみて怒っておりますぞ! 自国民が飢えているというのに、何が核実験か! 何がミサイル発射か! 民の苦しみをなんと心得ておるのか! と三太夫、怒り心頭でござりまするぞ!」


ほう。三太夫にしては珍しく真っ当なことを申すではないか。手土産は持ってくるわ、真っ当なことは言うわ。熱でもあるのか? ナースでも呼ぼうか?」


姫! これが三太夫の本来の姿でござりますぞ! 思い起こせば、あれは確か2006年のこと、北朝鮮は弾道ミサイル・テポドンを日本海に向けて発射したのですぞ!」

ほんに、今日はどうしたというのじゃ? 三太夫、キツネかタヌキでも憑(つ)いてはおらぬか?」


テポドンが日本海に落ちましたな! そのテレビニュースを見た天草のお婆ちゃんが『うわ! 北朝鮮がデコポンを撃ってきた!』と驚いたのですぞ!」


なるほどのぉ。手の込んだことじゃ。テポドンでギャグを言いたいがために、わざわざ熊本からデコポンを取り寄せたのか。はぁ……。ネタは古いわ、話は面白うないわ。さすがは三太夫じゃ。無駄に饒舌じゃ。姫はゆっくりとデコポンを食するゆえ、ソチはもう下がってよいぞ」

いや、平に。平に。姫に質問ですぞ! 北朝鮮の暴挙に、わが花柳藩は如何に対処すべきか、ご教示お願いいたしまする」

三太夫、よく聞くのじゃ。簡単にいうとのう、今を去る1950年であった。
 大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国とが、第二次世界大戦後に、かたや米国、かたやソ連が煽(あお)り、バックにつき、国連軍と中国人民義勇軍の支援まで得て、国際紛争へと発展させた。
 それが朝鮮戦争にまでいってしもうた……。
 ま、早い話が、共産国にしたくないアメリカ組と、共産国を求めるソ連(今のロシア)組プラス中国組が割り込んで入り、同民族である国を、今日のように二つの国に引き裂き、敵対国家にしてしもうたのじゃ。
 三太夫、日本も、この話には、アメリカの手伝いをして、罪が深いのじゃぞ。
 経済が疲弊(ひへい)したあるとき、日本の経団連とやらいう権力の座にすわる、今は亡き某氏が、
『朝鮮戦争でも起きんと、この不況から抜け出ないなア〜』
 などと愚かな冗談を、メディアの前で堂々と発しておる。
 テポドンかポコドンか、姫は知らんが、“戦(いくさ)に行くさ”などと、かっこつけていってる場合ではないのじゃ。あっ、これはダシャレであった。
 戦といっても、無辜(むこ)の民が戦場に行き、お互いに恨みつらみもないのに殺し合うのじゃ。
 高級な洋服を着ているエライさんは、なんにもせん。電卓叩いて、お金の計算をしているのみ。傷つくのは、無辜の民のみ。

 共産圏、社会主義などといって、いまや三代目を襲名しているが、そんな社会主義国家があるのか、オロカモノめ! この話だけでも、エエかげんな国と明らかじゃのう。
 おまけに、あの若さでコレステロールの塊(かたまり)のような様相。リーダーたる自覚皆無じゃ。そして、これからの自国を担っていく幼き子は、日夜、空腹を抱えておる。それだけでも、三代目の資格はないと、姫は思うぞ。まだまだ完成していない未成熟な国じゃあ。
 その国が撃つペコドンかポコドンなど、取るに足らぬ。
 あ、そうじゃ、三太夫! そち、携帯用ミサイルを、この正月、作っていたのう」

エッ、エエ……そんな……」

ほら、ボール紙で。これさえあれば、我が花柳藩も安泰でござります〜てなことをいって、腰元どもにウケを狙っていたではないか。
 やはり陸上戦より飛び道具の時代じゃのう。
 しっかりしたボール紙の筒を姫が作ってやる。
 三太夫、そちがその中に入って、そちの足に花火をたっぷりくくりつけ、姫が撃ち方となってやるゾ! 安心せい!
 あ、そうじゃ、我が藩の、世界に冠たるミサイル名は、“サンダ・ユー1号”と命名する。
 テスト1号ゆえに、どこへ飛んで行くか定かではないが、心配せず、信念をもって、三太夫! 行け! 民のためじゃ〜。
 しかし、初体験ゆえ、念のため、パスポートだけは懐(ふところ)にしっかり入れてのう。

 これで我が花柳藩も安泰じゃア〜。ホホホ〜。ハ、ハ、ハクション!
 もう〜、春よのう〜。クシャミの量が増えたぞ



☆     ☆     ☆     ☆

三太夫覚え帖
 デコポンは1972年、長崎県の果樹試験場口之津支場で清美(きよみ)ダンゴールと中野3号ポンカンを交配して誕生したのですぞ! その後、熊本県の不知火町に伝わり「不知火」という名で栽培されたのですぞ! 「デコポン」は商品登録名で糖度13度以上、酸度1度以下のものだけが晴れてデコポンを名乗ることが出来ますのじゃ! 
 姫! 今日はどうしたものでしょうか? 口を開けば、難しい言葉が次々と出てまいりますぞ!
 どひゃー! 鏡を覗(のぞ)いたら、三太夫の背中にイタチのようなものが憑いて居りますぞ!
 姫ぇー! 姫ぇー!




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