姫 三太夫でござりまするぞ!

【第三十四幕】










 
この物語は、事実に基づき(?)ながらも、大胆かつ壮大に時空を超えた歴史ワールドなのである。
 笑い、時には怒り、また時には涙なくしては読めぬという空前絶後、絶体絶命、以心伝心のパラレル・ショートストーリーともいえる!
   登場人物
    
 (幻舟)
   
三太夫(パラワー人)


姫! 三太夫でござりますぞ!」

ワッ! 三太夫! 顔が真っ黒ではないか。長い間、姿を見せなんだがハワイにでも行っておったのか? いや、そんな金はないか? それとも日焼けサロン、それも無理?」

姫! 三太夫のどこにハワイなどへ行くお金がございましょう! 花柳藩は姫の善政で、民百姓は何不足のない生活をしておりますが藩士のお手当ては少のうございますぞ! 三太夫は日々の生活のため、道路工事の交通誘導員や、ポスティングをして糊口をしのいでおりました!」

こりゃ! 三太夫。人聞きの悪いことを言うでない。
 確かに花柳藩は高給ではないが、生活に事欠くような給金ではないぞ! しかも健康保険や年金制度なども充実しておるわ。皆、不足のない生活をしておるし、ほとんどの藩士は退職前に住宅ローンを完済しておるぞ。
 三太夫はちょっとお給金が入るとパチンコに行ったり、チャバレー通いをして遊蕩三昧。挙句の果ては退職金の前借りまでするから生活苦になるのじゃ。『入るを量りて出ずるを制す』という『礼記』の言葉を知らぬのか? まさに三太夫のためにある教えじゃ!」

姫! 質問がござりまするぞ!」

またか。都合が悪くなると質問で誤魔化す悪い癖がでたな。まぁ、なんなりと問うがよい」

姫! テレビでワイドショーを見ておりますと……」

いきなり話題を変えたな! 」

どこのテレビ局も同じニュースばかりでございます!
『不倫騒動』や『日馬富士』『北朝鮮』同じ話題をクドクドと繰り返しておりまする! しかも同じコメンテーターがテレビ局を掛け持ちしており変わり映えのしないコメントばかり。
 同じ話題は聞き飽きたのでチャンネルを変えてもどの局も同構成。
 国際問題、スキャンダル、スポーツまでが各局、同じ時間帯に同じような内容の放送しております。
 どこに独自の報道がございましょうや。しかも恐ろしいことに、話題の人を、持ち上げる時は全員で持ち上げる、叩く時は一斉にボコボコに叩く。付和雷同とはこのこと、どこに独自の視点がありましょうや。
 さらに専門家やコメンテーターは『もし本当だとしたら』とか『これが事実なら』とか仮定の話ばかり。そして『許されないことですね』とか『何とかしなければなりません』などと、もっともらしいことを言うておりまするが、実に曖昧。本当かどうかを取材し、報道するのがジャーナリズムの本分ではございませぬか! それを、噂話を拡げて煽るだけの番組が多すぎますぞ! 『子供の貧困』『高齢者の生活保障』など取り上げるべきテーマは他に多くあるはず! 日本のマスコミはどこまで堕落するのでしょう! 姫はどのようにお考えでござりましょうや!」

さすがは三太夫じゃな。自分にはすこぶる甘いが他者には容赦がない。しかし、珍しく今日の三太夫は、実に“かしこスイッチ”全開! 姫はうれしいぞ。“かしこスイッチ”を賞(め)でて、三太夫の問いに答えてとらそう。

 三太夫のいう通り、まったく許しがたい、今日のテレビ等の放送内容の呆れ果てたザマ!
 人間、人として恥を捨てると、ここまで堕落できるという見事なサンプルとでもいえよう。
 刑事訴訟法に“伝聞に証拠能力なし”と、いう重い言葉がある。
 “誰々さんがこういっていた”とか、“誰々さんがいってた話、私、聴いたことがあります”等など、まさに実証のないウワサ話。そのウワサ話、次の人に伝えていく度、話は大きく尾ひれがつき、次第に、まるで自分が体験したかのように、見てきたかのように、聴いたかのように他者に伝える。
 なにげにウワサ話をしていても、ひとつ間違えば、名誉毀損や業務妨害等になり、刑事事件なら捜査妨害にもなりかねない、“伝聞”となってしまうのじゃ。

 今回、ニュースの中でも“超”話題を集めさせ、報道過熱をさせている、横綱自身が犯した『暴行傷害事件』をみるとき、ニッポンは法治国家であるということが、すっかりどこへやら吹っ飛んでしまい、被害者側が警察に被害届を出したことについて、加害行為者側すなわち、相撲協会側が監督しなければならないにもかかわらず、上層部が怒っている。警察に被害届を出した被害者に対して、相撲協会側がなんで怒るのか?
 おまけに、その尻馬に乗ってほとんどのテレビに現れるゲストコメンテーターたらの御仁は、被害者を棚上げし、論点がまったく完全にずれきってしまった。
 オイオイ! これは間違っているだろ!
 と、姫など断を下して一言のもとに終わる。
 もちろん、事実かどうかのウラをとる、調べた上にも調べ上げてから発言しなければならない事件なのだ。しかし、いわゆる文化人(?)や社会的有名人(?)たちは、どんな場においても、とくに後々責任をとらされることは困るし、次回の仕事にもつながる“とらぬ狸の皮算用”はしっかりするというあさましさには長(た)けた胸算用がテレビを通して見えてくる。
 テレビなどに露出したい欲望はタップリあって、三太夫のいう通り、語尾は曖昧で、結論はいわず、どうにでもとれる言語でごまかして終わる。なんたるけがらわしい守銭奴め。
 相撲界の『暴行傷害事件』、北朝鮮とアメリカとの鬼気迫るののしり合い(?)等々に、日々テレビのスタジオに居並ぶ“ゲスト”連の顔を見ていると、発言の前に発言の内容が読めてしまう、なんとも薄っぺらい番組構成。
 三太夫もいうように、「文句があるなら見んといたらええ」と、ヤツラは開きなおっていうだろう。
 だが、考えてみるがいい。
 メディアというものは、市井の人々に、日々起きるニュース(出来事)を、ウソ偽りなく裏を取り(取材を重ねて)調べ上げ、事実を伝える(報道する)、これがメディアの仕事なのじゃあ。
 同じニュースばかり、それも思い込みや、伝聞、曖昧な話の積み重ねで報道し、市井の人々の心を煽(あお)る。これはまさに商業主義そのもの。報道ではなくお祭り騒ぎじゃ。
 第二次世界大戦さながらに、大本営発表(国家権力からの発表)通りに国民に伝え、戦争を煽り、国民を地獄のどん底に陥(おとしい)れた、無益な戦争をさせたのじゃ! 今日の報道姿勢を見ていると、大本営発表を彷彿(ほうふつ)とさせてくれる。
 メディアの持つ強さは最強じゃ。だからこそ、慎重の上にもより慎重であらなければならんと、姫は考える。そしてまた、メディアがまき散らすニュースを、しっかりと読み解く力を市井の人々も磨かなければならん、メディアリテラシーじゃのう。

 姫の私見として、最後に一言。
 相撲界の『暴行傷害事件』について。
 被害者でもある弟子について、師匠の貴乃花という人に、姫は感動を覚えた。
 マスコミや相撲協会らから、あれだけ好き放題に同じ質問を繰り返されても、顔色も変えず、平常心で一言の反論もせぬ貴乃花親方。我が愛する弟子が重傷を負わされ、孤立無援の日々にもかかわらず、まったく筋違いの論評の愚かな嵐の中を、「松の廊下」よろしく刃傷事件になりはせぬかと案じていた。しかし、貴乃花親方は、近ごろまれにみる、自己が信じる一本の道を、たった一人で歩く人間の信念を見た思いじゃ。
 今は昔の話と、愚かな人々は笑うであろうが、一度決めた信念をたった一人、素足で荒れ地を歩むかのような、1ミリも狂うことなく凛(りん)とした足取りの人間性に、姫は立派と、彼を仰ぎ見る。
 横綱審議委員会委員長(北村正任・毎日新聞社名誉顧問)の会見の言葉に『貴乃花親方の言動にも問題がある』と、トンチンカンなコメントを、ふんぞり返る姿勢でしていたが、問題があるのは相撲協会、横審そのものに大きな問題があると、なぜ謙虚に心こまやかにジャッジができないのか、愚か者めが!
 もう一度いうが、ニッポンは法治国家、暴行されたり、そのことによって被害を負わされれば、まず警察。
 しかし、警察の前に相撲協会に届けていれば、内々で済ませたのに……、こんな大問題にならなかったのに……と、どこか『貴乃花親方の行動にも問題がある』というてるように読み解けるのう~。時代錯誤の愚か者めが! 筋違いもはなはだしいワ!

 貴乃花光司氏を、まるで、忠臣蔵の、大石内蔵助を見る思いに、姫は、力をもらったぞ!」
☆     ☆     ☆     ☆


【三太夫覚え帖】
「さすがは、姫じゃ! 三太夫が言いたいことを全部、理路整然とおっしゃった。
 しかし、11月30日の協会の危機管理委員会・中間報告で、高野利雄委員長が「貴ノ岩がすぐに謝れば その先(暴行)には行かなかった」との発言には腰を抜かしそうになったわい。『お前がすぐに謝らんからリモコンボタンで殴ってしまったんじゃ。悪いのはお前じゃい』と言っているのと同じではないか。白昼堂々とテレビカメラの前で、背広・ネクタイ姿の立派な紳士が、どうしてこんな無法者のような発言をするのか。昔の時代劇で、どてらを着た悪者の親分の言うなら分かるが。
 考えれば考える程、腹が立つわい。日本人の高潔な精神はどこに行ったのじゃ! 今の日本に武士はおらぬのか! 赤穂浪士の心はどこへ行ってしまったのじゃ! 三太夫は、三波春夫先生の『元禄名槍譜 俵星玄蕃』を聞くたびに涙を流しておるぞ!
 アッ! そうじゃ! 怒りのあまり、忘れておった! 今日はバイト先の給料日じゃった。久しぶりにパチンコに行くか! で、大勝したらチャバレーでパーっと騒ごうかな。勝てるといいなぁ。もしかしたら勝てるかもしれん。いや、きっと勝つに違いない! ふふふ。楽しみじゃのう~!」

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