花柳幻舟さんと、あれこれ考えてみる (2018.5.27号)



     メルマガ 2013年5月25号より
                     
【幻舟】

     
<大都会は、人間の情感皆無ですか?>

      先だって、残酷無慈悲な人間たちの中で、
     込み上げてくるような寂寥感(せきりょうか
     ん)に襲われながら、高齢の女性を抱き起し
     た。

      東京の地下鉄のホームは、大変混雑してい
     る。
      特に、新宿・渋谷・銀座はいうに及ばず、
     それら周辺の駅、それらへ通じる沿線の地下
     鉄は入り乱れていて、乗り換えの人らは、我
     勝ちに行き交う。ちょっと譲りあえば、とい
     う心の余裕は皆無。朝夕のラッシュ時だけの
     混雑ではないのです。
      一日中、混雑しているのが、東京の複雑に
     入り組んだ地下鉄であり、ホームです。

      その日はウィークデー。時間は朝10時過ぎ
     でした。
      地下鉄渋谷駅に近い某駅で、私と同じ電車
     から下車した高齢の女性が私の前を歩いてい
     たが、紺のスーツを着た、若いサラリーマン
     風の男性が、高齢の女性の肩を左手で突き押
     すように、先を急いで雑踏に消えた。
      その瞬間、女性は比較的大声を上げ、よろ
     めくように、ホームに崩れ落ちた。さっきの
     男に突き倒されたのです。
      何人かの人たちがその声に気づき、振り向
     いたのが私の目に入った。
      倒れた高齢の女性に、一言の声もかけず、
     しかも大股で飛び越えるように跨(また)い
     で、さっさと行き過ぎた中年の女性もいた。
      私は、高齢の女性に駆けより、
     「大丈夫ですか? ひざ、打ちつけていませ
     んか!?」
      と声をかけ、
     「ゆっくり、ゆっくり、立ち上がってくださ
     い。私の体を支えに、ゆっくりですよ。ひざ、
     痛くないですか……」
      と、二人の女が、ただならぬ雰囲気でモタ
     モタ動いている間も、チラチラ目線を落とす
     が、誰ひとり助けてくれる人間はいなかった。
      突き飛ばされた拍子にバッグを手放したよ
     うで、そのバッグを拾って、手渡してくれる
     人もいない。それどころか、バッグを蹴り飛
     ばしていく男も女もいた。
      高齢の女性は、幸いにもひざを打ちつけて
     コケていなかったので、ひざにケガはないよ
     うだったが、私は無性に腹が立ったのです。
      いかに大都会といえども、私たちの状況を
     目にしながら、誰ひとり、声すらかけてくれ
     ない人間たち……。
     「あなたたち、私たちと同じ人間ですか! 
     誰ひとり、声もかけないなんて! そこのバ
     ッグ、取ってくれたって、たいした時間はか
     かりませんよ! 薄情な人間ばっかりなんで
     すね!」
      と私は、大声を上げながら、高齢の女性と
     ホームの壁ぎわに寄り、
     「ここにいて下さいよ。バッグ、取りますか
     らね」
      といって、バッグを拾い上げながら、なぜ
     か切なくなり、涙が込み上げてきました。
      なんという世の中や、なんという人間ども
     や……、こんな薄情な連中ばっかりか……。
     「ハイ、バッグは無傷のようですね。ひざは
     どうです? 打ちつけていませんか?」
      といいながら、さすって、
     「スカートでなくてよかったですね。ここ、
     痛くありませんか? ここは?」
      あまりの出来事にショックを受け、その方
     は言葉が出ないようだった。
     「大丈夫……です。どうやら、手をついたみ
     たい……」
     「じゃあ、手首は、大丈夫ですか……? 痛
     くありませんか?」
      といいながら、その方の手首をゆっくりさ
     すっていると、
     「大丈夫……のようです……。どーんと、倒
     れなかったのね……よかった……」
      と、涙声になっておられた。
      一緒にエレベーターに乗り、改札口まで行
     く間も手首が心配で、
     「もし痛みが出たら、必ずお医者さんに、ね
     ……」
      その方が、別れ際に私をじーっと見つめな
     がら、私の手を握り、
     「世の中、薄情になりました。今日の出来事
     をみれば、あなたのおっしゃる通りです。ま
     ったく言葉を失います……けど、あなたのよ
     うに、やさしい人が、正義感の強い人が一人
     いました……。少しだけ心がやすまります、
     ありがとう、本当にありがとうございました
     ……」
      と、堪えておられた涙が、ポロポロとこぼ
     れたのを、私はしっかり見ながら、
     「お母さん、私こそ、ありがとうございまし
     た」
      その方の手のぬくもりが、私の心を少し癒
     してくれました。

      もうひとつ忘れられないのは、そのホーム
     に、『絆』『人と人との繋がり』な〜んて印
     刷された、色鮮やかな、どこやら企業のポス
     ターの文字がブラックユーモアに見えて、妙
     におかしかった。

      とまあいう殺伐とした出来事は、日常茶飯
     事。私などは、日々、侘しさがつのります。
      地球は完全に異星人に乗っ取られ、地球人
     同士の言葉も、情も、なんにも通じません。
      と思うしかないのか……しかし、こんなこ
     というと、
     「ワレワレハ、ソンナ、ツメタクア〜リマセ
     ン!」
      と、異星人に怒られるかも……。


 上記を更新したのが2013年5月25日。
 あれから、5年。


    
― 人間性をもぎとる市場経済主義 ―

≪無意識、無自覚、無関心≫

 の人間は、まるで法定伝染病のように伝播(でんぱ)し、5年経
った今日、日々悪化。
 あれから5年、病巣は世の中を蝕(むしば)んでいる。

 この伝染病を食い止めるのは、すべての人間が、社会の一員とし
て生きていることを自覚すること。

≪無意識、無自覚、無関心≫
 の思考を自己に問いかけてくれさえすれば、今日のような殺伐(
さつばつ)たる世の中を食い止め、社会的弱者といわれる人たちの
人間としての尊厳も保たれると、ま、簡単にいうと、人として、や
さしくなれると、私などは心底考えるのだが。

 今日の現状を見るにつけ、私のいう、人としてのやさしさや、
≪無意識、無自覚、無関心≫
 が、今日の元凶などといったって遅きに失したということか。

 どんどん堕ちていく世情。
 どんどん弱い者いじめの世の中。
 だが、人間、我慢の限界を超えたとき、いじめられっぱなしでは
ない。

「窮鼠(きゅうそ)猫を噛む」
 ということわざをご存知だろうか!
 泣き寝入りの思想だけを刷り込まれているニッポン人ばかりでは
ないことを肝に銘じて生きていただきたい。

 人間は、鬼にも蛇にも、また、仏さんにもなれるのだから。
 2013年5月25日に発信した文面を読み返し、私の怒りは哀しみに
変化するのを実感してやまない。

 つながり、絆、思いやり……等々、絵空ごと、ウソッパチを、
金もうけ主義者ドモ、言うな
!!