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 ニッポン全国、南は沖縄、北はちょっと泳げばロシアに手が届くという北海道……すべて仕事での旅。
 とくに、花柳幻舟になってからは、旅も幅広い。
 父に連れられての、幼いころの旅回りは、京阪神地方の旅芝居のみ。あ、鳥取が一番遠方の旅公演だったかなア……。
 私の夢は、仕事抜きで、ゆったりと、気の向くままに、それも船旅……です。





 もうだいぶ以前になりましたが、大分・別府湾〜大阪・天保山への一泊フェリーの船旅を実現したことがあります。
 仕事抜きの旅ですから、二、三日前からワクワク。
 こういうのを、“子どもの遠足”とでもいうのかな、そう、私は小学校に行っていないので、子どもたちの遠足も、修学旅行の体験もありません。
 外国へのひとり旅もありますが、仕事がらみの旅。
 とにかく、仕事以外の遊び旅行は皆無。ですから、そりゃもう、まさに筆舌に尽くしがたい興奮状態。


 船内に入ってみると、私のイメージとは相当なギャップ……。
 ラウンジという場所にオッサンたちが、あっちこっちにグループで集まり酒盛り、それも大声上げての大宴会。
 この光景だけで、ややガッカリ。


 船内をウロチョロ探検した。
 出航の合図なのか、“蛍の光”が船内に響く。








 船上最上階に上ると、別府の街明かりが遠く滲んで見える。

「ヨーコ〜、帰らないでくれ!!
 ズ〜ッと、オレのそばに……、ヨーコ! カムバック・トゥ・ミ〜!」
(てな男性も現れずか……、侘しいナ〜)




 ♪船は出てゆく アナタは来ない〜♪ 来ないはずだよ いないもの♪
 てな唄、なかったか!?
 マ、とにかく演歌の風景を彷彿とさせる、あれは寒い夜だったなア〜。




 あっちこっち船内を散歩していると、やっぱり禁煙マークのポスターがやたら目立って貼られていたが、喫煙コーナーもしっかり設(しつら)えていた。









 う〜ん、どこかで見たことがある、と足を止めた。
 廊下から個室にかけて……、う〜ん、どこで……。
 アッ! 
♪なつかしいな〜 古里のヨ〜 栃木の刑務所〜 なつかし〜いナ〜♪
 なんちゃって! 刑務所か!




 入所時に描いた私の獄中日記の絵の独房、スリッパつけたらソックリさん。
 う〜ん、なつかしい、

♪なつかしいな〜 古里のヨ〜♪

 刑務所をなつかしがったら、おかしいかナ〜。
『夕焼けは哀しみ色』(三一書房刊)より



 けど、ワクワク興奮しすぎてか、疲れて果てて、爆睡ZZZZZZ……。
 船内のアナウンスの大声で目が覚めた。
 窓から外をのぞくと、エ〜! 朝!
 おまけに、そこは大阪・天保山の港だった。
私は船で、単に寝ただけかい!?