姫 三太夫でござりまするぞ!

【第十一幕】










 この物語は、事実に基づき(?)ながらも、大胆かつ壮大に時空を超えた歴史ワールドなのである。
 笑い、時には怒り、また時には涙なくしては読めぬという空前絶後、絶体絶命、以心伝心のパラレル・ショートストーリーともいえる!
   登場人物
    姫 
(幻舟)
   三太夫
(パラワー人)



姫! 三太夫でござりますぞ!」

三太夫か。どうした? 赤い顔をして。また女子(おなご)に貢いだあげく逃げられたか?」

姫 ! チャバレー・ハナヤギのみっちゃんはひどいオナゴでござりますぞ! さんざん、プレゼント攻撃をしたあげく……。いや、姫! そんなことではござりませぬ。今日の三太夫は怒っておりますぞ! 激怒でござりますぞ! ニッポンでは東京オリンピックを開催とかで浮かれておるではござりませぬか! なぁにがオリンピックじゃぁ。だいたい、この国においては水俣病患者を切り捨て、米軍基地は沖縄に長年にわたり押し付け、解決の糸口も見えず、でござりますぞ。そして大震災のあった東北を見捨て、原発事故を起こした電力会社を助けるのでござります! 国の借金は1千兆円におよび、挙句の果てに世界中に放射能をばら撒いたくせに『日本は安全だからオリンピックさせてチョーダイ』などというのでござりますぞ! 
 何が『お・も・て・な・し』でござりましょうか! 
 仮設住宅でお住まいの皆さまを、おもてなしせい! でござりますぞ! それを、なぁにがオリンピックじゃぁ! 三太夫は怒り心頭でござりますぞ! 責任者、出てこぉーい!」


三太夫、本当に責任者が出てきたらどうするのじゃ?」


謝ったら終いや!」


三太夫……それはボヤキ漫才で有名な人生幸朗師匠のネタのパクリであろう。一人で長々としゃべくり倒して結末はそれか? 姫のツッコミが欲しいのか?」


いや、姫! 年甲斐もなく興奮してしまいましたぞ! しかし、ニッポン国のていたらくは見ていて歯がゆいのでござりますぞ。姫! 姫は、東京オリンピック開催をどのように見ておいでで?」


三太夫、よく言うた、血圧あげて、よく怒ってくれた! 姫は嬉しいぞ! 
 思い起こせば十三大橋で、妻子に逃げられ、リストラにあい、憔悴のあまり佇(たたず)む三太夫を、いまは亡き姫の父君が助け、縁あって、今日、家老職にまで上りつめ、しかしどこかスカタンなところはあるが、温かい心根が、姫には伝わっておるぞ。まして、今の怒り! 姫は嬉しい。
 三太夫のいうとおり、今、ニッポンでオリンピックなどやってる場合か! 1964年のオリンピックの折と同じ、大規模なゼネコンがらみの景気回復はミエミエやデ! いや、ホンマ。
 このまま行けば、また、元きた道、すなわち追いこせ、追い抜け、もたもた歩くな! と、人の情愛も蹴散らかし、自分勝手に生きるヤツらが増殖して、今よりもっと格差社会は広がるやんケ……。
 あっ……姫ともあろうものが、つい、やんケ〜などと、ホッホホホ。
 許せん、オリンピック、なんとしてくれようか……。こんなとき、横山やっさんが存命なら……。
 三太夫、地球は丸いのじゃ。世界は海でも風でもつながっている。世界中に放射能がまき散らかされていることは明白な事実。それを、あの某アベたらという枕絵の殿様みたいな男子(オノコ)は、“東京は安全!”しらっぱくれやがって。
 ウソつけ! 子どもでも分かるウソを。なんで東京だけ安全やねん! 庶民をなめんじゃねえ。
 そんな言葉で世間様を欺(あざむ)き、ウソ八百を並べたてたところで、天知る、地知る、人が知る! 
 エ〜イ(片肌脱いで)、この桜吹雪が、オイ、オイ! お見通しだ! 
 オイラの体に彫ったこの桜、真っ赤に染まり、はかなく散るのか、それとも、てめえたちのそっ首が宙を舞うのか、いま、しっかり見せてやるぜ! てめえたち、覚悟しろ!」

ヒ、ヒ、ヒ、ヒメ、その、桜……イレ……イレ……」

〜アッ、あまりの怒りに、つい片岡千恵蔵殿の名場面を……ホッホホホ。いや、姫はまだ若いゆえ本物は知らぬ、が、この前レンタルビデオ屋さんで腰元が借りたという、昔の名画、デェ〜、観テェ〜……。
 話は変わるが、三太夫、現在のニッポンの状況を見捨てて、国民の意思を度外視し、単にオリンピックやりたさに、世界に向かって『虚偽発言』。ここまで堂々と発言できるのは、きゃつは虚言癖があるのやも……。
 ま、あまたの政治家の発言など聞いていると、どうやら政治家の資質は『虚言癖』があるということかもしれぬのう。
 しかし、姫は怒っているのじゃ。
 三太夫、オリンピック反対、とひとりでブツブツ言っていても何も変わらん。
 第二次世界大戦をみよ! 誰がいい出したのか、お国のため! の連呼で群集心理を煽(あお)り、のせられ、戦争へ。
 市井の非戦闘員までが殺され、他国の多くの人々を無惨にも傷つけた。姫は、想像するだに、泪がとまらん。
 何もしなければ、何も変わらん! ノーという勇気が必要なのじゃ。憂き目をみるのは庶民、弱者じゃ!
 一人が二人に、二人が三人へと集まれば、群衆じゃ。
 今、現実に生きる庶民の人々がニッポン国中で、弱者を切り捨てて決行するオリンピックなど、全面的に賛成などと思っているわけがない、格差社会を望むわけもない!
 一人一人が、大声で、ことあるごとに、
『東京オリンピック反対! 優先順位が違うじゃろう!』
 となあ叫び、群衆の力のすごさで、目にものをみせてくれなければならん。三太夫、そのときが、来ているのじゃ。どうじゃ〜三太夫」
☆     ☆     ☆     ☆

三太夫覚え帖
 さっすがぁ姫! 胸のすくようなスリランカ! いや、セイロン、正論。ご高説を伺うたびに膝をポンっと撃ちますぞ。興奮すると舌が回らず、言いたいことの半分も言えない三太夫とは大違い。ポンポン言葉は出て来るし話の筋は通っているし。これは姫の鼻筋が通っているのと関係しているのか? それにしても姫も興奮すると上方言葉と江戸っ子弁が入れ替わりが出るが、横山やっさんが言う『替わりべったん、替わりべったん』ということか。
 まぁよい。姫の桜吹雪の彫り物がプリントと分かって一安心じゃ、上方言葉の一つや二つ。

 虚言癖と言えばチャバレー・ハナヤギのみっちゃん。何度も店に通ってデートの約束を取り付け、待ち合わせ場所に行くとすっぽかし。次の日、店に行き問い詰めると急におばさんが亡くなってお葬式に行ってたとか言うが、この一年間でおばさんのお葬式だけで16回もあったぞ。おばさんて、そんなにいるものかぁ? でも、昨日はおじさんのお葬式って言ってたな? 今度は本当かも。今晩も行ってデートの約束しようかな?

 

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