姫 三太夫でござりまするぞ!

【第十五幕】










 
この物語は、事実に基づき(?)ながらも、大胆かつ壮大に時空を超えた歴史ワールドなのである。
 笑い、時には怒り、また時には涙なくしては読めぬという空前絶後、絶体絶命、以心伝心のパラレル・ショートストーリーともいえる!
   登場人物
    
 (幻舟)
   
三太夫(パラワー人)



姫! 三太夫でござりますぞ!」

こりゃ、三太夫。バレンタインデーでチョコレートをもらえなかったことが諦めきれぬのであろう。腰元たちにまとわりついておると聞くぞ。ここに、去年のマーブルチョコの残りがある。欲しければやるぞ」

姫! 三太夫はチョコレートなぞ……、チョコレートなぞ……」


これ、三太夫。涙目になっておるな。かわいそうな男じゃな。これだけオナゴに持てぬ男も珍しいわ。義理チョコひとつ貰えぬとは」


姫! 三太夫はチョコレート欲しさに城内をウロウロしておるのではござりませぬぞ! 城内のメンテナンスをしておるのでござります。瓦の状態や雨漏り個所の点検、耐震構造の見直し、火災報知機のチェック、それにボイラー点検なぞ多忙を極めておりますぞ!」


そちの点検個所とやらは腰元のお尻についておるのか?」


そうそう、腰元のお尻はムッチリと……、いや! そんなことではござりませぬ。花柳藩は常にメンテナンス業者が定期点検を行い、消防署や警察・警備会社とも連携し、日頃から防災訓練も行っておりますゆえ安全対策は万全でござりまする」


それなら三太夫が城内をウロウロとする理由なぞ無いではないか」

姫! 三太夫は姫に質問がござりまするぞ!」

やっぱりチョコレート欲しさか。返答に困るとそれじゃな。今日はどんな質問じゃ。三太夫が思いつくような疑問など姫が即座に答えてつかわすぞ」

姫! 花柳藩と違い、日本国では危機管理が全くといってよい程できておりませぬぞ! なんでもかんでも東京一極集中。首都直下型地震など大災害がひとたび起これば首都圏三千万人だけでなく日本全体の情報・流通が止まり指揮系統は乱れまくりでござりまする!
 大災害だけでなく大雨や大雪など、ちょっとした気候変化だけで大混乱になるのは必定! 札幌・名古屋・大阪、福岡といった都市にバックアップ体制を持たせるべきなのに、有効な備えができておりませぬ。
 東北で大震災が起こったときでも、即座に現地に対策本部を置き、次官クラスの官僚や閣僚が仙台に常駐し、現場で指揮をとり即座に決済すべきでござりましょう。何の不便もない霞が関や永田町に居て被災者の困難が分かりましょうか? これだけの大災害が起こり3年も経っているのに、まったく反省もしておりませぬぞ!
 先日、東京で10cmの積雪がどうたらとか言うておりましたが、それくらいのことでオタオタしておりまするのじゃ。一極集中という積年の課題をほったらかしておるからでござります。この国をどうするのかという根本的な問題は議論すらされておりませぬ! 官僚はダメ。政治家はもっとダメ。
 第四の権力と言われるマスメディアも堕落しまくりでござります! テレビのチャンネルをひねれば、どの局でも 何か食べているか仲間内で騒いでいるか、なんたらショッピングというものばかり。ジャーナリズムの本来の姿を忘れ安直な番組作りで、まさにテレビの自殺行為でござります!
 たまにニュース番組の解説を聞いても、コメンテーターは
『なんとかしないといけませんね』
『早急な対策が望まれます』
『もっと議論しないといけませんね』
 などと常套句ばかり羅列。オノレのコメントをなんとかせい! 責任者、出てこ〜い!

姫が……悪かった! 姫が……姫が……う〜ん、(なんで姫が謝るのか?)
 あっ、そうか、日ごろの三太夫と違うて、人が変わったように正義感に満ちあふれた、まっとうな発言に、思わずしらず、姫は感動の渦に巻きこまれて、謝ってしもうたのか……。
 しかし、今日の三太夫は、なんぞ悪い注射でも打ったんではないか。日ごろの三太夫とガラリと違う。
 三太夫、注射はイカン! 常習性があるゆえ、その上お金もかかる……警察に捕まるゾ。オッ、話がそれた、許せ!
 三太夫の真っ当な質問に答えてつかわそう。
 そちの怒る通り、姫も怒り心頭じゃ。
 東京で10センチくらいの積雪で、電車は止まるのは当り前。東京から送られるらしい新聞に至っては、遅れるどころか2月15日の大雪の日などは、とうとう新聞は来なかった(横浜在住の知人の話)。
 豪雪地帯の人々からみれば、実にマンガでしょう。
 官僚も政治家も、いわゆる背広組は、絵に描いた餅の話はうまい。だが、現場まで足を使って現実を体感せずに、単に論じているのみ。だから、東京が大雪や大雨などに遭遇したとしても、なんとも対処できんのじゃ! 官僚、政治家、行政の得意のセリフ「想定外」でごまかすのか!
 姫は、なにごとも体験主義が立派などと、愚かなことをいっているのではない。
 官僚も政治家も、自分は誰から給料をもらって生活できているのかという、この原点に立ち返り思考するならば、日ごろから努力もしようというもの。
 三太夫のいうメディアについても、その通りじゃ。
 法律に“伝聞証拠なし”(刑事訴訟法)という決まりがある。しかし、メディアでは又聞きやウワサ話がまかり通り、その又聞きが次へ伝わり、まるで伝言ゲームのように話ができあがる。
 いうなれば、現実はメダカだったのが、次第にクジラに変貌、その反対もありじゃ。
 第二次世界大戦下による軍部発表のいわゆる『大本営発表』に対して、裏を取るどころか、軍部発表通り、戦争高揚の虚偽報道をくり返し、ニッポンの人民大衆に対して甚大な被害を与え、さらに近隣諸国への傍若無人で残酷非道な被害を与えたニッポン軍。この話も、当時はなんら国民には知らされていなかった。
 この体質は、現在も変化はないのじゃ。

 『ドロボウ捕えて縄をなう』ということわざがあるが、ニッポンの政治、行政の仕事を見ていると、まさにこのまま、後手後手に回る彼らの行動には、あきれ返るばかり。
 なにか大事が起きてからオタオタと……、すべて「想定外」で片づけ、また年月が経って「想定外……」の一言で終わるのじゃ。
 市井の人々は、わずかな生活費からあれこれ理屈をつけた高い税金を支払っている。
 姫は、誤解を恐れず一言いっておこう。
 市井の人々、我々がもっと賢くならねばならんのじゃ。
 テレビでは制作費をケチり、国民総愚民化を狙った番組に躍起になっている。たとえば、異常な大食大会や、自分の“豪邸”と称する過美な自宅を披露し、自慢のアクセサリーを見せびらかす……。
 地球のどこかで、今この時間に餓死して路上で朽ち果てている人々がいるということについては、頭の片隅に微塵も存在しない愚か者たちが制作し、我々国民から考えるという思考を奪おうと、メディアをあげて政治家が力を入れているのじゃ。
 東北での大震災にともなう福島の原発事故を「想定外」と、一言で終わり、政府の考える「想定」について、なにも総括せず、もしもの折の「想定」を作ろうともせず、原発再開と、各地にある原発再稼働を進めている。
 愚かも、ここまでくれば言葉を失う。
 そのほうがいう通り、ニュース解説番組に出演している評論家の言葉が、これまた曖昧。
 はっきり、きっぱり現実の話をすることは、次のお仕事や出演へのお座敷がかからない!
 ひたすら曖昧な発言をし、自己保身のみの出演。早い話が、金儲けと知名度を守るため存在している人種たちなのじゃ!
 そやつたちも、官僚や政治家と同罪といえるであろう。
 姫は、はっきりいう。このままではニッポンは、もうダメじゃ!
 今の政治家や官僚、行政に、このままま任せていれば、強烈な格差社会もあいまって、確実にニッポンは死滅するであろう。
 三太夫、覚悟を、せい!」

☆     ☆     ☆     ☆

三太夫覚え帖
「いやぁ、まいったなぁ。本当にバレンタインデーの残りものでも貰えぬかと城内をうろついておったのじゃ。姫に咎められたので、思わず苦し紛れに質問をしたら姫のツボにはまってのご高説。途中から寝てしまったので内容はよく覚えておらぬが。
 アッ! そういえば、今日はテレビ花柳でコメンテーターとしてのアルバイトがあったのじゃ。
『なんとかしないといけませんね』
『早急な対策が望まれます』
『もっと議論しないといけませんね』
 これは言えぬぞ! ほかに話をすることがないぞ! どうしよう!
 なんとかしないといけませんね」

 

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