姫 三太夫でござりまするぞ!

【第二十二幕】










 
この物語は、事実に基づき(?)ながらも、大胆かつ壮大に時空を超えた歴史ワールドなのである。
 笑い、時には怒り、また時には涙なくしては読めぬという空前絶後、絶体絶命、以心伝心のパラレル・ショートストーリーともいえる!
   登場人物
    
 (幻舟)
   
三太夫(パラワー人)


姫! 三太夫でござりますぞ!」

三太夫か、その方の顔を見た日は夢見が悪いぞ! 用件が済んだらさっさと帰るのじゃ」

姫! 夢に見る程、三太夫のことが好きなので?」

夢見が悪いというておる! その頓珍漢なところが姫の理性を狂わせるのじゃ」

狂うほど三太夫のことが……」

好きではないわ!! ええい! 今日という今日は許さぬ! どたまカチ割って ストローで血ぃ吸うたろうか!!」

姫! それは往年のテレビ番組『てなもんや三度笠』のギャグでございまする! 若い人には分かりませぬぞ! ヒジョーにサビシイィー!」

もうよい、もうよい。そのギャグも若い人にはわかるまい。もう帰れ、帰れ」

いや、姫! 今日は姫に質問があってまいりましたぞ!」


どうせ、サンリツパンはどこへ行けば買えるのか? といったレベルの質問であろう。懐かしいな、サンリツパン」


いや、姫! サンリツパンの話は改めてするとして、今日の質問は『自己責任』でございまするぞ! たとえば、戦場カメラマンが紛争地でトラブルに巻き込まれ亡くなったとしましょう。すると途端に、あちこちから自己責任という言葉がでてきますが、三太夫は不思議でなりませぬぞ!」


ほう、自己責任がどうして不思議なのじゃ?」

年端もいかない子供はともかく、また大災害や社会の大きな流れはともかく、人は、行動の全てに自己責任を持つべきではありませぬか! それを、『これは自己責任ですね』などと、ことさらに言うこと自体、おかしいと思いますぞ!」

三太夫、その方の背中になにか得体の知れぬものがチラチラ見えるが大丈夫か? お稲荷さんの鳥居かなんかでオシッコをせなんだか? 怪しいものが憑いているのではないか? 三太夫がまともなことを言いだすと姫は心配で仕方がないぞ」

姫! 三太夫はいつもいつも真面目でござりまするぞ! 人間は生きていく上でいろんなことを決断しなければなりませぬ! 誰に相談しようが、自問自答しようが、最後に結論を出すのは自分でござります。どんな結果になろうとも、それは自己責任になるのではないでしょうか?」

三太夫! 熱をはかるぞ!」

姫! どんな人でも判断を誤ることはございましょう! しかし失敗を通してこそ人間は成長するのでございまするぞ!」

これ、小姓の蘭丸! お祓(はら)いの準備をせよ!」

姫! 人は自分の決断や行動に責任を取るからこそ、選択の自由というものがあるのではございませぬか?」

ひぇ〜〜! 三太夫が壊れたぁ!」

姫! 現代人に『自己責任』というものを教えて下されい!」

三太夫の問いに答えてやろう。
 三太夫のいう通り、人間はすべてのことに『自己責任』を持たねばならん。
 ニッポン国の権力の座にすわる者どもは、周りの情勢をうかがいながら、流れを気にしながら、『これは自己責任で』てなことを、都合よく仕分けをして、発言しているのじゃ。
 現政権にとって、国家にとっての損得勘定、ソロバンをはじいての自己責任。それゆえに、ときとして、コラコラ! と思われるような『自己責任』という話も出てくる。すなわち矛盾が出てくるわけじゃ。
 企業からの献金や、汚職贈賄事件なども、発覚すると、『私自身、知りませんでした。秘書に任せているもので』と、ミエミエの大ウソもつく。雇用者責任というのがあることは知っているであろうに、この鉄面皮。

 大地震は自然災害、しかし原発の情報隠しや、なんら原発自体の解決もなされぬまま、海外へ向かっての『汚染水はアンダーコントロール』と、国際的大ウソをつく。それも、世界各国大運動会(ひと呼んで“東京オリンピック”ともいう)したさにじゃ。
 福島の原発の残骸(ざんがい)、無惨な現状を見るにつけ(勉強するにつけ)、姫は怒り心頭じゃあ。
 経済活動などというが、どのように経済が繁栄しようとも、人が人として、安心して暮らせなくて、なんの繁栄ぞ。
 原発の後片づけをしている労働者たちは危険な場所で必死で働いておるが、背広組は、なんら手を汚すこともなく、金勘定に明け暮れておる。
『想定外』と、権力者や金と権力の座にすわる連中はいう。原発などというものを造るとき、『想定』などと、ちっぽけな経験や体験的図式で計るとは、笑止千万(しょうしせんばん)。偉大なる自然を『想定』などと、なめるんじゃねえー! 世間の目を、どれほど欺(あざむ)こうとも、お天道様は、お見通しだ!
 自然の脅威、自然のメカニズムは、人間ごときの力は及ばぬ、計り知れぬエネルギーがあるのじゃ。自然を軽んじた結果の『想定』であることは、福島の原発の惨憺(さんたん)たるありさまが物語っておる。
 『想定外』などと発言して逃げのがれるきゃつらこそ、百叩きの刑にしてやりたいわ。
 きゃつらこそ、『自己責任』を取らせねばならん。
 どうもニッポン人は、ものごし柔らか、もめごとはどうも……と、一見柔らかそうにふるまっているが、ものごとの本質から目をそらす傾向が強いようじゃ。
 それによって、小さな事象が大惨事、大事件へとつながっていく、それは過去の歴史を見れば歴然とする。
 人間は、すべての事柄に責任を持つ、という根本的な、人間としてのありかたを忘れて、商業主義、資本主義の熱に、いや、その商業主義、資本主義も、大企業の資本家や、国家の策謀に踊らされてのことじゃ。
 今や、遅きに失しているが、もう一度、静かに自己の足場、自己の生活をじっくり見つめてもらいたい。

 あっ、それで思い出した。
 三太夫、そなた、先だって十三(じゅうそう)の“バチンコ屋”にて、すっかり自己を忘れて、玉に興じていたそうじゃなア。その姿を腰元のおコンが目撃しておった」

ゲっ〜! そ、そ、そ、ん〜〜ナ〜〜」

『あんなご家老様とは思いませんでした……』
 と、あ然呆然を超えて泪目になっていたぞ。
 そのあと、
『すいません、ちょっと懐(ふところが)が……。少し、お金、貸してもらえませんか……?』
 てなことまで言い、おコンににじり寄ったとか。
 それこそ、自己責任じゃあ!!
 二、三日、絶食すればよいのじゃ。
 よいなア、わかったのう」



☆     ☆     ☆     ☆


三太夫覚え帖
「いや、しかし、おコンに無心したことまで姫がご存じとは。ギャンブルとは理性を狂わすものであるからな。はずかしいわ。
 それにしても、ウツラウツラと聞いておるうちに姫は難しいことを言っておられたな。『自己責任』とか『世界各国運動会』『想定外』とか……。
 途中から意識がハッキリしてきて、姫の言われることが頭に入るようになったが、それまで拙者は何をしていたのであろうか……?
 たしかぁ、十三の“バチンコ屋”で、しこたま負けて意識が朦朧(もうろう)となり、屋台で安酒をあおったな、ツケで。で、そのあと、お稲荷さんの横でおしっこをしたことまでは覚えておるのであるが……。そういえばその時、何かが背中に張りついたような気もしたが……。
 まぁ、よいか。明日は阿倍野で新装開店の店があるぞ。開店前から並んでやろっと 」



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