姫 三太夫でござりまするぞ!

【第二十五幕】










 
この物語は、事実に基づき(?)ながらも、大胆かつ壮大に時空を超えた歴史ワールドなのである。
 笑い、時には怒り、また時には涙なくしては読めぬという空前絶後、絶体絶命、以心伝心のパラレル・ショートストーリーともいえる!
   登場人物
    
 (幻舟)
   
三太夫(パラワー人)


姫! 三太夫でござりますぞ!」

三太夫か、よいところに来た」

姫! 三太夫の真面目な仕事ぶりへのご褒美に臨時ボーナスでもいただけるので?」

こりゃ、三太夫。姫はついぞ三太夫が真面目に働いておる姿を見たことなぞない。よいところに来たというのはそんなことではない、三太夫。この財布は三太夫のものではないか?」

姫! 確かにこれは三太夫の財布でござりまするぞ! そうそう、全国家老会議に出張した折に紛失したもので……」

こりゃ、三太夫。いい加減なことを言うではない。これは先ほど、花柳中学の水谷殿が持って来られたのじゃ。財布に三太夫の名刺が入っていたのでお持ちしましたとな」

水谷殿?」

三太夫は有名な水谷殿を知らぬのか? 花柳中学の先生でな、夜になると繁華街を歩きまわり、生徒が非行に走るのを防ごうと奮闘されておる立派な方じゃ。夜回り先生とも呼ばれておるがな。時には危険な目に逢うこともあるそうじゃが、体を張って生徒を守っておられるのじゃ。コンビニでおなごの手を握ってパトカーを出動させた三太夫とはえらい違いじゃな」

姫! 何をおっしゃる! 三太夫は、この花柳藩のために体を張っておりまするぞ! たとえこの身は八切りにされても花柳藩を守り切る覚悟でございまするぞ!」


こりゃ、三太夫! 八切りは画用紙の大きさじゃ。三太夫の年で、今さら小学校の写生大会に行くわけではあるまい。それも言うなら八つ裂きにされてもじゃ、アンポンタン! 話が横道にそれたわ。
 水谷殿がいつものように夜の繁華街を回っていると、花柳中学の生徒3人が連れ立って歩いている、その少年たちに、話かけたところ、三太夫の財布を持っていたのが分かったのじゃ。三太夫、その方、中学生にカツアゲされたそうじゃな。中学生が言うておったぞ。弱そうなオヤジがいたのでチョット凄んでみたら自分の方から財布を差し出した。それもガタガタ震えて。で、後で中身を見たら238円しか入って無かったそうじゃ。水谷殿は生徒に人の道を説き、三人とも家まで送ったそうじゃ。体を張って生徒を守る水谷殿と、中学生に恐喝される三太夫。この差の大きさは、提灯と釣り鐘どころではないな」

うぐぐぐ……。姫! 姫に質問がござりまするぞ!」

またいつものように苦し紛れの質問か。鳥の頭ほどの容量しかない三太夫の脳味噌では、質問でその場逃れをするしか智慧が浮かばぬであろう。もう三太夫に説教するのも疲れたわ。質問に答えてやる。姫の答えを聴いたら早々に立ち去れい」

姫! 質問というのは他でもございませぬ! あの少年Aこと、 『酒鬼薔薇聖斗』のことでござります。なにやら手記を出版しましたな。題名を口にするさえおぞましい。金に目のくらんだ出版社が恥ずかしげもなく出版し、全国の書店で販売しておりまするぞ!
 いくら今の日本が堕落した国家になったとはいえ、ここまで非道なことが行われて良いのでござりましょうか!
 この、人の道を踏み外した出版について姫のお考えをお聴かせ下さいませ!」

ワッ〜ア〜、三太夫〜、コロッと賢(かしこ)スイッチに切り替わった! そなたの頭の構造を、一度、御典医などに診てもらわねばのう〜。
 さて、賢スイッチに答えてとらす。
 三太夫のいう通りじゃ。出版社にどのような考えがあろうと、商売、金になると思い、出版したとしか見えんのう。
 姫も立ち読みで目を通したが、少年Aは、結果、自分の苦労話に終始しているとしか読み解けん。
 しかも、出版に際して、少年Aは出版社に、
“被害者には知らせないでくれ”
 と念押ししたそうな。
 もしそれが本当なら、ますます許せん。少年Aも出版社もじゃ。金儲け、商業主義に血迷うたと、出版社は糾弾されても仕方のないこと。
 人間には、決して犯してはならぬ、人間としての生きる道がある。
 今現在、すべてがその道にはずれた行為の連続により、世の中がいびつになり、恥意識も希薄となっている。
 商業主義、資本主義に走る人。
“金もうけして、どこが悪いんですか?”
 といった、ドラエモン、イエモン、ウ〜? そのようなモンが開き直ってメディアに露出しておった。
 あれなど典型的な資本主義の申し子、強者の論理を振りかざし、格差社会をつくる人間であろう。
 姫は、金を稼ぐ人々にいいたい。
 金の稼ぎ方にも人の道というものがあり、そして稼いだ金を使う、それにもまた正しい使いかたがある。
 水は高い所から低い所へ流れる、の例え通り、正しく稼いだ金は、社会的弱者の人たちに還元する。我がものと、不当に決して使わぬ事。
 三太夫、わかるか?
『今日あって 明日もあるかと 想う心のあだ桜』
 人間の一生など儚(はかな)いもの。
 なに事にも、謙虚に、常に自分の身辺を見渡して、我が身を律する心じゃなあ。
 今、書籍の流通が不調、書籍離れじゃ。大多数がネットで小説等を見るという。
 そんなとき資本家は、イッ・パ〜ツとヒットを飛ばしたい、内容や社会的影響なんて二の次、三の次、とにかく話題のヒットじゃなあ。
 少年Aの著書は、まさにそれであろう。愚かしい事じゃあ。
 被害者の方や、その御身内衆は、胸かきむしられる辛さと怒りであろう。
 本とは、一度読み、本棚に置く。何カ月、何年か後にフッとまたその本を手にする。そのとき、違うところに気づいたり、我が身、我が心に響いたりする……それが名著と、姫は考えるのじゃあ。
 メディアの一翼を担う出版社が、金儲けだけに奔(はし)る、決して許せんことじゃのう」
☆     ☆     ☆     ☆


三太夫覚え帖
「今日もなんとか質問で切り抜けることが出来た良かったわ。
 花柳電鉄に乗っていた時に、隣の乗客同士が少年Aの話をしていたのを小耳にはさんでおったので、なんとか誤魔化せたがな。ほんに今の日本の出版界も嘆かわしいことじゃ。
 しかし、姫は水谷殿のことを褒めすぎじゃ。何が夜回り先生じゃ。三太夫とて夜の街では、夜遊び先生と呼ばれておるぞ。
 それにしても中学生にカツアゲされたことが姫にバレるとはな。ちぃと辛いわ。まぁ、でも良しとしよう。この前なんぞは小学5年生に囲まれてビビったからな。このことは姫には秘密にしておこう」




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