姫 三太夫でござりまするぞ!

【第七幕】










 この物語は、事実に基づき(?)ながらも、大胆かつ壮大に時空を超えた歴史ワールドなのである。
 笑い、時には怒り、また時には涙なくしては読めぬという空前絶後、絶体絶命、以心伝心のパラレル・ショートストーリーともいえる!
   登場人物
    姫 
(幻舟)
   三太夫
(パラワー人)



こりゃ、三太夫。天守閣の、大きな窓ガラスの前で何をしておるのじゃ?」


おお! これは姫! 三太夫でござりますぞ!
 三太夫は天守閣の、空気の入れ替えをと、窓を開けたいでござりますが、この窓がどうしても開けられませぬ!」


こりゃ、三太夫。その窓はフィックスじゃ。開く道理があるまい」


フィックス……? フィックス、ヘブン、エイト……?」


アホ! それはシックスじゃ! それにシックスの次はセブンであろう。その方、まだ天国に行くのは早かろ? 姫が言うのは、フィックス! FIXとは、専門用語で、はめ殺しの窓のことじゃ」


はめ殺し? ははぁん。それはつまり、なんでございましょう『三太夫の男前!』とか『三太夫はインテリ!』とか、まぁそんなことでございましょう?」


それは、ほめ殺し! はめ殺しの窓とは、窓枠を固定し、開閉の出来ぬ窓のことじゃ! 三太夫、その方はわざとボケかましをしようと天主閣で待ち構えておったな? ろくに仕事もせぬくせに、姫の公務の邪魔をするなど不届ききわまりないわ。座敷牢に入って反省するか? 囚人番号など付けてやろうか?」

いや、姫! ご容赦を! 実は三太夫、姫に質問があって お待ちしておりました。姫! わが花柳藩は姫のご人徳のおかげにより五穀は豊穣で庶民の腹は満ち満ち、城下の人心も安定しておりまする。
 しかし隣国の日ノ本藩ときたら、失われた20年とか申し、社会も政治も人心も乱れに乱れて居りますぞ! ところで日ノ本藩では最近、アベノミクスとか云うておりますが、どこまで庶民のためになるものやら。アベノミクスに対する姫のお考えをお聞かせくださいませ!」


三太夫、今日は冴えておるのう、良き質問であるぞ。
『安倍』の苗字と『エコノミックス』すなわち英語の“経済学”をくっ付けて、世の中では造語と呼んでいるが、姫からいうと、単なるオッサンのさぶ〜なるダジャレ。それが巷間いわれておるところの“アベノミックス”なのじゃ。
 日ノ本藩のオッサンのダジャレに、現在、世の中、振り回されているが、中身は、柳の下のドジョウを狙ってのバブル景気を目論んでおる。その目論みは、おおざっぱにいうと、金融緩和・公共事業・成長戦略であろう。

 金融緩和などと実に曖昧な文言でいっているが、その中身は、日本銀行にお札をたくさん刷ってもらい、世の中にばらまく。さすれば世の中にお金が回りやすくなる、などと、子供銀行のような発想の金融緩和。
 いかに日ノ本藩の藩主といえども、日銀の政策に口出しはできない、にもかかわらず、藩主本人いわく「大胆」に手出し、口出しをしているのじゃ。
 信頼ならぬアベのオッサンとやらの人がらと、曖昧な政策により、日々、株式市場は上がったり下がったり。まるで壊れたエレベーター。恐ろしい限りであるのう。
 日銀は、世の中にお金が出回ると金利が下がるとか、住宅ローンや高層ビルを建てるお金が借りやすくなる。また、金利が下がると、円が売られて、円安になると申しておる。
 円安になれば輸出が増えるので、商品を外国に売っている大企業は儲かる、それで株価も上がり、ひいては経済が活発になるという胸算用のようじゃのう。
 しかし姫は、オッサンのダジャレ計画がうまくいくのか? と聴きたい。
 単なるサラリーマンや非正社員たちの給料や労働条件が上がるのか。
 大企業の儲けが増えたからといって、即、給料等に反映しないことには、外国からの輸入自由化まで進め、外国の商品が入ってきておる。今日、そのため物価もどんどん上がっておる。そうなると、今までより、かえって庶民の生活が苦しくなるのじゃあ。
 富める者はなお富み、そうでない者はなお堕ちてゆく、すなわち格差社会は今より一層悪化することは火を見るより明らかじゃ。
 「デフレ」の現状では景気回復は無理だからといって大ナタを振るう、日々の暮らしになんの不自由もないブルジョアであるアベとやらの人間には通じぬのであろうが、収入の少ない市井の人々にとっての物価高騰は死活問題なのじゃ。
 “アベノミックス”とやらの政治が進むにつれ、世の中はいま以上に乱れ、経済犯罪も巧妙になり、多発するであろう。
 格差社会の中で生きる庶民にとって、生活は安定せず、夢や希望を失う。その結果、人は溜まりに溜まったフラストレーションにより、弱い者は弱い者にキバを剥く。すなわち、希望を失った人間は自暴自棄となり、そのとき任せの犯罪に走る。過去の歴史を見れば明らかじゃ。

 公共事業で経済活性化……またもやコンクリートすなわちゼネコンで成長戦略と目論む愚か者の姿を見るにつけ、政策を聞くにつけ、決して庶民たちのためには生かされていない。まるで間違った、もと来た道に戻るようで、姫は情けなく胸が痛むのう〜。

 だが、あの愚か者は、くせが悪く、無責任の家元のようで、都合が悪くなれば、急病たらで雲隠れし、とっとと辞任する恥知らずの前例があることも、決して忘れず、油断は禁物。わが藩も出陣の用意を怠るでないぞ! よいのう、三太夫」

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三太夫覚え帖
天守閣でサボっておったら、いきなり姫の登場。ああ、びっくりした。いつものように「姫! 質問でござりますぞ!」で切り抜けたものの。そうかぁ、アベノミクスとはそのようなものであったのか。てっきり、大阪の繁華街、アベノで食べたお好み焼きの、ミックス焼きのことかと思うた。アベノミックスってか。ププッ! 面白しろ! こんどはこのギャグで姫にボケかましをしてみよっと。

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