姫 三太夫でござりまするぞ!

【第二十八幕】










 
この物語は、事実に基づき(?)ながらも、大胆かつ壮大に時空を超えた歴史ワールドなのである。
 笑い、時には怒り、また時には涙なくしては読めぬという空前絶後、絶体絶命、以心伝心のパラレル・ショートストーリーともいえる!
   登場人物
    
 (幻舟)
   
三太夫(パラワー人)


姫! 三太夫でござりますぞ! おや? なにかご覧になっておられますな?」

ふむ、三太夫か? これはな、昔のアルバムじゃ。さて、三太夫。質問に答えたぞ。用がすんだらさっさと帰れ」

姫! それはあんまりにも冷とうございまするぞ! 何もそんなに邪険に……ううぅ……」

三太夫、泣き真似はよせ! 目薬をさして涙目にするのではない! わざとらしいのじゃ。面倒な男じゃ。よいよい、もう少し詳しく話をしてやろう。これはな、姫がフランス旅行をした時のアルバムじゃ。懐かしいな、ニース、 モンサンミッシェル、シャルトル大聖堂、ロワール古城、 ルーブル美術館、シャンゼリゼ通り……。いやいや、すまぬ。三太夫にシャンゼリゼ通りなどと言っても分かるまい。許せ、許せ」

姫! 姫は何かというと三太夫のことを見下されますぞ! シャンゼリゼでございましょう! それくらいのこと、三太夫には常識でございまするぞ! シャンゼリゼでございましょう! シャンゼリゼねぇ……。そうそう! あれでございましょう! ほれ、そのう、ホテルとか結婚式場の天井にある豪華な照明器具の……」

それはシャンデリアじゃ! 予想通りのボケかましじゃな。もうよい、下がれ!」

姫! 三太夫は質問がございまするぞ!」

またか……。質問に答えたら、下がるのじゃな? さっさと質問せい!」

姫! 昔懐かしの歌を聴いておりますとな、奇妙なことに気が付きましたぞ! 笠置シヅ子の『買物ブギ』で、〜♪「おっさん、おっさん、これナンボ」「わしゃ、ツンボで聞こえまへん」〜♪の歌詞が「わしゃ聞こえまへん」になっておりましたぞ! 石原裕次郎の♪〜おいらはドラマー やくざなドラマー〜♪ が「やんちゃなドラマー」と歌詞を変えたTVコマーシャルが流れておりましぞ! 美空ひばりの名曲『 波止場だよ、お父つぁん』 の一番の歌詞 ♪〜年はとっても 盲でも〜♪ が差別用語に当たるとして、カラオケなどでも2番・3番の歌詞しか演奏されておらぬと聴きましたぞ! 『波止場だよ、お父つぁん』の歌詞を最初から最後まで読んでご覧あれ。どこに差別意識がございましょう! 父を思う娘の切ない気持が歌われておりますぞ! 三太夫は差別には大反対でございます! しかし、なんでもかんでも言葉を言いかえるというのにも反対でございまするぞ! 問題は、本質ではございませぬか! 差別・差別用語について姫のご高説を伺いとうございます!」


三太夫! 頭は大丈夫か? 三太夫がまともな質問をすると姫はハラハラするぞ! シャンデリア程度の会話が三太夫にはふさわしいと思うのじゃがな……、姫としては。まぁ、よい。せっかくの良質なる問いじゃ。答えてつかわそう。
 まず初めに、差別用語について考えてみよう。
 たとえば、何万人かの集りの中で、誰も何とも感じない講演者の言葉であっても、聴衆者のたった一人が、その言葉によって疎外感、劣等感、自己否定……等々に至る、いうなれば心の大きなキズをえぐるような感情に陥(おちい)ったり、ひいては怒りの言葉さえ出ず、心身ともに硬直してしまう、そのような状況に直面したとする、そのたった一人の人にとっては、デッカイ差別用語。何万人の人間が、「そんなことはない!」といおうとも、姫はこういうことを差別発言として、決して許さん。

 三太夫の指摘した歌詞の前後の脈絡等に表現されている詞を聴けば、一目瞭然。なぜその曲のもつイメージまで壊して変更しなければならないのか。
 その曲を作った作詞家、作曲家に対しての越権行為ともなろうし、表現の自由にもかかわってくる。まさに、ズ〜ッと以前、流行(はや)った“言葉狩り”の一つじゃなア。

 ゆえない差別を受け、世の中で怯(おび)えながら、身を縮めて生きている人たちへの深い思想から発想しての『言葉を選ぶ』というのであれば、姫もそれは当然の事と思う。
 だが、当時は単に、まるで、発言者が、『言葉を選ぶ、なぜゆえか!』といった、思想もなく、単にクレームが怖いからとか、あとで問題になりたくないとか、特に公の場での発言行動には、思想抜きで、怯えていただけじゃあ。

 姫の知人に、テレビ局のエリートプロデューサーがいた。
 その御仁は、“イモ”という言葉を聞くと、身も凍る、怒りを超えた、劣等感に心が固まってしまという告白を聴いたことがあった。
 その御仁は、地方から出てきて、国立大学も卒業し、大テレビ局に入社し、ヒットの連続の番組を持つ大プロデューサー。にもかかわらず、
『あいつさ〜、イモだよ、垢(あか)ぬけしなくてサ〜』
 てな、他者の軽口をしているにもかかわらず、自分のことをいわれているかのように感じてしまう。
 東京に出てきて、地方訛(なま)りによる劣等感や孤独感の中で、彼なりに駆け上がってきたのであろう。
 中央集権意識の東京にあって、地方出身者である彼は、大都会の中で、劣等感と必死で戦った。そのために、彼の心の中にトラウマとなって大きなキズが残った、“イモ”という言葉が。
 ま、このように、差別という問題は根深いものじゃ!
 しかし、誤解をしてはならん。
 言葉を言い換えればよいといった事なかれ主義や、言葉狩り的な行為は間違っている。
 しっかりとした思想にもとづき、「言葉を選ぶ」ということを、現在生きている人間たちにも学んでもらいたい。
 老若男女まったく、ひどい言葉づかいの人間たちがドンドン増殖しておる。姫は怒っているのじゃあ〜」


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三太夫覚え帖
「なるほどぉ。人それぞれじゃな。エリート社員が『イモ』で凍りつくのかぁ。
そういえばワシは最近、凍りついたことがないなぁ。
「禿げ」「貧乏」「無教養」「短足」「臆病」「退屈な男」「スケベ」……、他にもいろいろ言われたが平気じゃな、いつも。なんといっても事実であるしな。
そうそう、思い出した! そういえば先日ギンギンに凍りついたことがあったわ。腰元の入浴姿を覗こうと、城内の女風呂の方へ歩いておった時じゃ。急に背後から「こりゃ、三太夫。こんなところで何をしておるのじゃ!」と、姫に声をかけられたな。あの時は凍りついたわ」





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