姫 三太夫でござりまするぞ!

【第三十幕】










 
この物語は、事実に基づき(?)ながらも、大胆かつ壮大に時空を超えた歴史ワールドなのである。
 笑い、時には怒り、また時には涙なくしては読めぬという空前絶後、絶体絶命、以心伝心のパラレル・ショートストーリーともいえる!
   登場人物
    
 (幻舟)
   
三太夫(パラワー人)


姫! 三太夫でござりますぞ!」

三太夫か……。不憫(ふびん)な男じゃのう。今年もバレンタインデーは全敗だったらしいな。いろいろと事前に工作をしたのにな。ハローウィンから始まり、クリスマス、お年玉、成人式、ありとあらゆるイベントで腰元たちにプレゼント攻勢をかけたと聞いておるぞ。節分には恵方巻きまで配ったとか……。にもかかわらず、全て不発か……、ううぅ……。姫は涙が出そうじゃ、不憫(ふびん)な男じゃのう。
 三太夫、もうすぐ雛祭りじゃ。いっそのこと桃の節句から一年かけてプレゼント攻勢をかけてはどうじゃ?」

姫! 三太夫は質問がございまするぞ!」

いきなりかい! 都合の悪い話題が出るとすぐにそれじゃな。なんでもよい、申してみよ」

姫! 日本国では、やれ『ベッキー』だの『清原』だのと、マスコミがこぞって悪口を言っておりますぞ。したことは悪いに違いございませんが、何もあんなに揃いもそろって悪口雑言はいかがなものかと思いますぞ!」

確かにそうじゃな。日本のマスコミは、持ち上げる時は一斉に持ち上げ、叩くとなると、これまた全員で袋叩きじゃな」

みんながみんな同じような報道をするのを見ていると、共産主義国家のマスコミかい! と思いますぞ! もっと角度を変えて報道すべきではございませんか!」

ほう! おなごに冷たくされたショックで覚醒したか? 随分と、まともなこを言うではないか。で、たとえばじゃどんな報道をしたらよいのじゃ?」

たとえば覚醒剤がなぜ危険なのか、徹底的にキャンペーンする良い機会ではございませぬか! 覚醒剤の使用を続けた人間がどうなるのかを知らしめるチャンスでございますぞ! また、どのように更生すればよいかの啓蒙も必要ですぞ。それを清原容疑者個人の問題とし全員で攻撃でございまする! 『ベッキー』問題もそうでございましょう。これも悪いことではございますが、あそこまで徹底的に叩くことでございましょうか?
 話題になるものなら何でも取り上げて視聴率を稼ぎたい、新聞や雑誌の発行部数を伸ばしたいという魂胆がミエミエでござりますぞ! 見る方も見る方で、親戚でもないのに人のことを、そこまで詮索しなくてもよいと思いますぞ!」

三太夫! 熱は無いか? 拾い食いでもしたか? まともなことを言うまいぞ! 姫は心配になってきたぞ! 良い加減なところでボケかましをしたらどうじゃ? いや、しかし苦し紛れとはいえ良い質問じゃ。
 三太夫の言うとおり、日本のマスコミは付和雷同じゃからな」

姫! 姫の例えは分かりにくうございますぞ! いや、確かに映画の『眠狂四郎(ねむり・きょうしろう)』は適役ではございますが……」


それは『市川雷蔵』。姫が言うは『付和雷同』。ま、いつもの三太夫に戻ったので姫もちょっと安心じゃが。
 せっかくの質問じゃ。日本のマスコミにはどうして見識がないのか、説明して使わそう。
 そもそもテレビを放映しているのはスポンサーすなわち大金を出している企業、メーカーが存在している。
 ドラマや映画、わけのわからん、見るに堪えないドンチャン騒ぎの番組にも、スポーツ番組にも、ワイドショーというバラ寿司のような番組にもスポンサーが付いているのじゃ。
 テレビ放映すべてに企業がスポンサーとなっているところに、大きな問題があるのじゃ。
 ややしつこいと思っても、旬(しゅん)のネタ、話題の人間を徹底的に追いかけ、手を変え品を変え、面白おかしく料理し尽す。
 視聴率さえ上がればスポンサーは喜ぶ。番組担当としても、内容よりもスポンサーあっての番組。局としては視聴率を高くしてこその番組なのじゃ。
 諸悪の根源といえるのは、商業主義、資本主義。その観点から読み解くと、はっきり見えるのではないか。
 ニュースや天気予報にさえスポンサーが付いているのだからのう。
 我々一般の人々に『伝える』というテレビ媒体の本来の目的、すなわち報道人としての姿勢、また人間としての品性等々を、もう一度すべてのメディアに姫は問いたい。
 三太夫、よく聴け!
 人間というものは、他者や多数の人々の話に簡単に影響を受ける。そして群集心理に惑わされ、日ごろの自己を見失い、多数の人らにのみこまれてしまう。
 どんなことであれ、自分の頭で考え、行動するということがどれほど大切なことか。
 毎日、長時間おろかな番組を見続けたり、スマホ遊びばかりに興じるでないぞ。
 あっ、忘れておった。
 某テレビ番組の中でアナウンサーが“覚醒剤って、一回使用でも、中毒になるのか”との問いに対して、“一回ぐらいでは中毒などにならない”と、薬物についての専門家といわれるドクターが発言しておった。
 それは大間違いじゃ。
 一回の使用の折、全身に受ける解放感、鎮痛効果等々、これまで抱えていた五体や心の問題が一気にフッ飛ぶ。
 だが、薬が全身から抜けていくと同時に、以前の自分に戻る。その強烈な落差によって、もう一度、あの薬を! あの薬で楽になりたいと、つい手を出してしまう、お金があればなあ。薬を求めて、金を求めてウソもつく、薬を買うために、それまでの人生は次第に変わっていく……とまあ、一回の使用によって薬物の依存症、すなわち『ヤク中』に陥(おちい)るのじゃ。
 軽く“一回ぐらい”などと、努々(ゆめゆめ)思うでないぞ」  

☆     ☆     ☆     ☆


三太夫覚え帖
「そうかぁ……。テレビは視聴者のためにあると思っておったのに、スポンサーのためにあったのか。視聴率目当てが元狂じゃ。芸人がちょっとブレイクすると全テレビ局がこぞって、くどいくらい同じ芸をさせるからな。で、飽きられるとポイ捨てじゃ。100円ライターでも、もっと長く使われるぞ。
 それにしてもじゃ、役人か、警察か、マスコミか、誰が名づけたものか知らぬが、『覚醒剤』などと おかしげな名前をつけたものじゃ。本来、覚醒とは「目覚めること」「迷いから覚めること」の意味じゃ。これでは『覚醒剤』が体に良い薬のような印象を与えるではないか。『脱法ハーブ』が『危険ドラッグ』と名称を変えたように『覚醒剤』も危険な薬と認識できるように名前を変えねば……。う〜ん、たとえば『廃人剤』とか『亡者になる薬』とか、怖くて手が出せない名称にするべきと思うがな。
 わっ! しまったぁ! 三太夫覚え帖は、姫の解答に対してボケをかますコーナーだったのに真っ当なことを書いてしまった! 三太夫、覚醒か! 」





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