![]() 【第十幕】 |
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「 | 姫! 三太夫でござりますぞ!」 |
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「 | ……ん? 三太夫、来ておったのか?」 |
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「 | 姫! 何を物憂げなお顔で考え事を? それにしても、姫の笑顔はもちろんのこと、キリッとした時のお顔も美しゅうござりますが、物憂げに考え事をされておられる時の表情も
また格段にお美しゅうござりますなぁ」 |
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「 |
……三太夫。その方、まっ正直な性格よのう。思ったことをすぐに口にする男じゃ。そういえば、しばらくお給金をあげてなかったのう。考えておくぞ」 |
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「 |
ふふふ。思うツボ。いえいえ、何も申しておりませぬ。三太夫は、さっき重い壺を持ったので腰が痛いと申したまでで。で、何を考えておられたので?」 |
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「 |
ふむ、来月の歌会のことを考えておったのじゃ。来月の趣向は少し変わっておってな。お題は『クリ拾い』で、五・七・五・七・七の頭に『クリ拾いを』入れるのじゃ。と、言うてもわかるまい。ちょっと考えておったのを披露するか。 【く】くじゅう山 【り】リンドウの花 【ひ】陽を浴びて 【ろ】路傍に咲けり 【い】今を限りと ま、このようなことじゃ。どうじゃ、三太夫。その方もやってみぬか? そちの脳みそでは荷が重かろうが」 |
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「 |
何をおっしゃる、姫君。そのようなこと、三太夫にとっては造作もないこと。即興で作りますぞ。【く】からでござりますな? ふふん。え〜。ゴホン。く……く……くぅ、くぅ、くぅ……」 |
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「 |
こりゃ、三太夫。鳩が餌でも探しておるのか? 早よう始めい」 |
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「 |
くぅ、くぅ、くぅ……そうじゃ! 【苦しいわ】りぃ。りぃ、りぃ、 【リンゴを食べた】ひぃ、ひぃ、ひぃ・・ 【ヒロインが】ろぉ、ろぉ…… 【ろれつも回らぬ】いぃ、いぃ 【胃けいれんだワ】 ふふふ、いかがで?」 |
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「 | はぁぁ……おそらく白雪姫のことであろうが、ろれつが回らぬとか、胃けいれんでは、あまりにも白雪姫が可愛そうじゃ。姫が少し手直しをしてやろう。 【苦しみて リンゴを食べた ヒロインが 老婆の毒で いまわの際に】 うーん。もうひとつスッキリせぬが、元の歌が悪いから仕方がないか。三太夫、用が無ければ早よう帰れ」 |
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「 | 用事を思い出しました! 姫! 三太夫は今日は姫に質問があって参りましたのでござりますぞ! 姫! 三太夫は子供のころから『辛抱強い』とか、『忍耐強い』と言われたことがござりませぬ! なんでもすぐに飽きてしまうのでござります! どのようにすれば姫のように忍耐強く、辛抱強くなれるのか。ぜひ、お教えくださいませ!」 |
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「 | そうじゃなあ〜、あれこれ言うよりも、姫がときどき趣味でしている彫刻、その彫刻用の木槌で、三太夫の頭を一ペン、ポカ〜ンとタタいてとらそうか? そうすると、スッキリするかもしれん。 「辛抱」や「忍耐」は、自分で養って育てるもの。 三太夫、忙しかろうが、一日に一回、たとえ三分でもよい、正座をして、目を伏せ、無我になる……正座が無理なら遠く一点を見つめて無我になる。ま、早い話、三太夫、落ちついて無我になる訓練じゃのう。試みてはどうじゃ。人は、『緊張と緩和』、これが一番大切なのじゃ。意味がわかったか? 確かに、近ごろ緊張せず、緩和、緩和、緩和で、ゆるみっぱなしの人間が増え、カンの悪い、空気の読めんピンボケも多くなったがのう〜」 |
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【三太夫覚え帖】 そうかぁ。『「辛抱」や「忍耐」は、自分で養って育てるもの』かぁ。 姫のお話はいつも役に立つわい。 しかし、養って育てるとなると養育費がなぁ。今のお給金ではちと難しいかなぁ。明日、また姫におべんちゃらしてみよっと。 それに無我になるというてもなぁ。いまさら竹脇無我になるのは難しかろうなぁ。整形手術は高いと聞いておるし。やはり、明日はおべんちゃらの上におべんちゃらを重ねるか。 あと、『緊張と緩和』? これは聞いたことがあるぞ。そうそう、今は亡き桂枝雀師匠の「お笑いは緊張の緩和である」という、緊張緩和理論のことか? ふふふ。三太夫は常に姫とお話をしているせいか、理解力が増したように思うな。もしかしたらインテリの仲間入りが出来るやもしれん。 |
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