姫 三太夫でござりまするぞ!

【第三十二幕】










 
この物語は、事実に基づき(?)ながらも、大胆かつ壮大に時空を超えた歴史ワールドなのである。
 笑い、時には怒り、また時には涙なくしては読めぬという空前絶後、絶体絶命、以心伝心のパラレル・ショートストーリーともいえる!
   登場人物
    
 (幻舟)
   
三太夫(パラワー人)


姫! 三太夫でござりますぞ! 明けまして おめ……」

スカタン! 今は弥生三月 春うららじゃ! もうすぐ桜の花が咲くわ! 今頃、新年のあいさつをする愚か者がどこにおるのじゃ! あまりに三太夫が登城せぬので、どこかで死因不明者のリストにでもなって、引き取り親族が捜しているのでは……と思っていたところじゃ、無事であったか! ところで、今ごろ何をしに来たのじゃ」

姫! 三太夫とて何かと多忙で……。♪〜 昨日 タァ坊 今日 トミー〜♪と言うくらいで」

古い! それは『圭子の夢は夜ひらく』の歌詞じゃ! アア、あんな古い歌を知ってる姫も、やや古いか。お恥ずかしい。
 話をガラリと変えて、今まで何をしておった? また『ひらや物語』でも読んでおったか?」

姫! 平家物語と書いて、ひらや物語とも読めるではございませぬか! ちょっとした勘違いでございまするぞ! そうそう、ちょっとした勘違いと云えば、かの村田先生なども……」

村田先生? 誰のことじゃ?」

姫! 村田先生と云えば村田英雄先生しかおりませぬぞ! その村田先生がうどん屋のメニューを見て「カウドン!」と注文されたのは有名な話ですぞ! 『力うどん』の『チカラ』をカタカナの『カ』と勘違いされたのですな。あと、パスポートの申請をされるとき、性別欄に『SEX』と書かれているのを見て、伴天連の言葉に詳しくない先生が、『これは何と読むのですか?』と聞かれたそうな。で、セックスと読みますと教えてもらい、記入欄に『週3回』と書かれたそうですぞ! かの村田先生でさえ、勘違いされるのですから三太夫が勘違いしてもおかしくは無いと思うのですが!」

あのな、三太夫。村田先生といえば歌謡浪曲の第一人者。『無法松の一生』『王将』『人生劇場』など、たくさんヒット曲もあるのじゃ。そういう実績ある方の勘違いは、ご愛嬌というものじゃ。ああ、こういう大御所でもこんな勘違いをされるのかと、かえって親近感が増すというひとつの例。古い!! その手の話は、姫でも知っておるわ! それにひきかえ、三太夫。そちは、なにか人より優れたものがあるか?」

姫! 三太夫はゴミ出しの曜日を暗記しておりまするぞ! 可燃ごみは月曜日と金曜日で赤いビニール袋、プラスチックは木曜日で緑のビニール袋でござる!」

マヌケ! スットコドッコイ! それくらいのこと誰でも覚えられるわ! 三太夫は生きていること自体が勘違いかもじゃ。早く自分自身に目覚めるべきではないか?」

姫! 質問でございまするぞ! 人間はどうして勘違いするのでございましょうか? TVなど見ていても『自分は間違っていない』とか『この専門分野では第一人者である』とか、しかし勘違いしている人を多く見かけまするぞ! どうして、自分のことを勘違いする人が多いのでございましょう?」


都合が悪くなると質問ではぐらかす癖が出たな。まぁ、よい。答えてつかわそう。
 三太夫、♪娘さん よく聴けよ♪ おっとこれは違ごうた! 許せ。
 あらためて三太夫、よく聴け。
 それらの人は、早い話、スカタンじゃなア。
 人間というものは我欲にかられ、自分を見つめる前に、なんとか他者からエラい御仁と褒(ほ)めたたえられたいのじゃ。
 また、会ったこともない人に対して、ウワサ話に尾ひれをつけ、どこかで耳にした話をふれ回る人も多い。本人はそれを聞くことにより、いつの間にやら己も立派な、エラい人間、知識ある人間のように、ま、都合のよい、高等な言い方をすれば、自己暗示にかかってしまう。
 しかしのう、三太夫。地球は大きく広い。世の中には、上には上がいるものじゃ。
 自己を卑下(ひげ)することはないが、ピンボケの自信過剰、“我が一番”と思い込み、有頂天になるのはスカタン、与太郎の元締めじゃ。
 姫は常日頃、次のように心がけている。
 見ず知らずの人とお会いするとき、相手が立派な身なりをして、大勢の人たちをお供に引き連れて、やおら名刺とやらを差し出したとき、恭(うやうや)しく頂だいはするが、姫の心の奥底では、のう、“肩書を示すこの名刺などというものは単なる紙きれ、それがなくなったとき、また会おう!!”と常に考える。その時、この御仁は、単なるデブはデブ、マヌケのオッサンはオッサン。それ以上でもそれ以下でもない。
 今は名刺、すなわち役職や肩書にものをいわせているだけ。他の人らも、仕事上、頭を下げているだけじゃ。
 そのことにさえ気づいていない人間は、真に立派な人とはいえぬ。
 三太夫の言う“その分野の第一人者”といわれている医者が、研修医以下の診立(みた)てをして、患者をたらい回しにした例もごまんじゃ。
 まず、人間は愚かである、人間は錯覚や、人の口車に乗せられて自分の歩むべき道を迷う生き物であるということを心に、三太夫、生きてゆくのじゃぞ!
 少し難しかったかのう」

☆     ☆     ☆     ☆


三太夫覚え帖
「なるほどな、姫のおっしゃる通りじゃ。それにしても専門用語が多かったな、今日は。「スカタン」「与太郎の元締め」か、辞書で調べておかねば。
 確かに姫のおっしゃる通り、名刺や肩書だけで勝負している輩が多いな。もっと自分自身を知らねばな。姫のご回答にはいつも感心至極じゃ。

 おお、そうじゃ! 姫のお話に感心しておって肝心なことを忘れておった! 今日はチャバレー花柳で、春のチャバレー祭りがある日じゃ! この前、家老の名刺を渡したら、いつもよりエライもてたな。ふふふ、今夜は良いことがあるかもな!」



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