姫 三太夫でござりまするぞ!

【第三十九幕】





 
この物語は、事実に基づき(?)ながらも、大胆かつ壮大に時空を超えた歴史ワールドなのである。
 笑い、時には怒り、また時には涙なくしては読めぬという空前絶後、絶体絶命、以心伝心のパラレル・ショートストーリーともいえる!
   登場人物
    
 (幻舟)
   
三太夫(パラワー人)


姫! 三太夫でござりますぞ! 明けましておめでとうござ……」 

アホ、スカタン! 今日を何日と思うておるのか。もう二月も末じゃ。弥生三月春うららまであとわずかと言うのに今頃、年始の挨拶をするマヌケがどこにおるのじゃ! 年末から姿を見なんだがどこで何をしていたのじゃ! このクソたわけが!」

姫! 花柳藩の姫君ともあろうお方が、クソたわけとは余りにも下品なお言葉! それでは日本の政治家と同じになってしまいますぞ!」

そうか、少し言葉が過ぎたかもな。では言いなおそう。このスペシャルあほんだらが!」

姫! 少々、言い方が変わっただけでございますぞ! それに三太夫のアホは藩の極秘事項のはず! 滅多なことで口外されてはなりませぬぞ!」

いや、周知の事実じゃ! しかし自分の口からアホを認めるとはな、なんとも悲しい男じゃ。で、長い間、登城もせず今まで何をしておったのじゃ?」

三太夫は、年末年始はとても忙しかったのでございます! なんと南極まで行っておりましたぞ! 極寒の地で働く南極観測隊に盆踊りを教えておりました! まぁ、そりゃもう、猛吹雪の中、浴衣(ゆかた)姿では耐えきれん位に寒かったですぞ! しかし我慢強い三太夫は見事に耐えきったのでございます!」

三太夫、姫を担ごうとするのは良いがな、すぐにばれてしまう嘘をつくのではない。誰がそんな見え透いた嘘を信じるものか。ちょっと北風が吹いただけも寒さに震える情けない三太夫が、南極なんぞに行けるわけがあるまい。
 ところで寒いと言えばな、姫は元旦に、お城のお堀で初泳ぎをいたしたぞ! 新年吉例の花柳水練術・初泳ぎの式典でじゃ。お堀には薄氷が張っておったが、そんなものをモノともせず最後まで泳ぎ切ったぞ」

エッ!! 姫! それは凄い! 花柳流水練術と言えば、甲冑(かっちゅう)を着けて泳ぐ、屈強な男でも難しいという武芸。それを姫が真冬にでございますか!」

三太夫……、嘘とはな、こんな風につくのじゃ。初泳ぎの式典という真実の中に、こっそりと嘘を忍ばせるのじゃ。三太夫のようにバレバレの嘘は子供でも見破るわ」

う・う・う……。悔しい! 姫! 質問でございまするぞ! 人はなぜ嘘をつくのでございましょうか! また簡単に嘘にだまされる人と、騙されない人の違いはどこにあるのでしょうか!」

“ひとつのウソを守るためには、99の真実を言う”と、誰やらがいっていた。
 それほどウソをつくときは、神経を集中し、過去の言動もしっかり記憶して、単に口から出まかせではなく、ウソを誠に実証するという、ま、三太夫にはむずかしいかもしれんが、頭が必要じゃのう。

 国会議員を見ていると、ほとんど底なし沼のアンポンタン丸出し。目玉キョロキョロして、唇は乾き、必死で一夜漬けでつめ込んだ質問を吐き出そうとしているが、頭の中には、な~んも残っていない。そんなヤツには、3K、4Kという鮮明に映し出される今日のテレビの画面には勝てん。
 汗一滴まで丸見えじゃあ。テカテカに光った顔のアップ。警察の取り調べで、ウソ発見器にかけられているかのようなざま、情けないのう。
 小学生以下の質問にも答えられへん哀れなウソつき、いや与太郎。
 そんな、超おバカを、国民の納めている税金で養っているワレワレも、与太郎とあんまり変わらへんのじゃア。
 
人間には欲がある。
 
ケガをしても自分の体内から出る免疫力で癒して治癒させる力。これも、生きて行く、人間の欲じゃ。
 ちょっと考えれば、即読み解けるサギ商法に簡単にひっかかるのも、人間の中にある“欲”。
 一発儲けよう、今あるお金を増やそう……などと考えたところに泥沼にはまる。
 おまけに、人間、権力に弱い。
 呼びかけ人やポスターなどに著名人の名前や、やんごとない人間の名前など書かれていたら、一発で自制心を失い、群がる。ちょっと考えれば判る程度のサギ商法にコロッと乗って金を巻き上げられる。
 人間が、簡単にウソや子ども並みのちゃっちいサギに引っかかるのは、権力に弱いこと。実体のないものに脅(おび)え、ひれ伏す思想。

 姫は、どこの誰か知らぬ人間が、肩書を列挙した名刺を出されたとき、心の中で思うのじゃ。
『この肩書から離れたら、この人間、一体なにが残るのじゃ。仕事辞めて肩書なくなったら、デブのオッサンは単なるデブ。どんなにふんぞり返ろうと、世の人々は、仕事(名刺)に頭を下げてくれているだけである』
 と、なあ~。
 常に心ある人は、愚かなウソや見栄を張ることなく、自然体で生きていける。
 正義は様々、各々(おのおの)異なるが、真実はひとつじゃ。
 三太夫、真実を見誤ることなく、愚かな者に騙されるでないぞ。
 人間は、そもそも、自己を守るためにウソをつく生き物なのだからのウ~。

 ウソがばれても、真から命を賭して謝罪するという人間もおらん!
 いつの頃やら、テーブルの前に居並んだオッサン連が、
『誠に申しわけございません!!』
 これでおわり。
 頭下げて、謝って許されるなら、警察いらん!
 第2次世界大戦以来、最高責任者が真から謝らず、なんとなく“煙に巻く”文化と政治が出来あがり、反省も真からの謝罪はなく、ウソついて、謝らんとトンズラしたもん勝ちの、えらい世の中じゃ。その矛盾に誰が気づいているのか、いないのか……。
 ツライノウ~~」

☆     ☆     ☆     ☆


【三太夫覚え帖】 

「なるほどのう! 昨今はお詫び会見ばかりが目立って情けない思いをしておったわ。大企業の社長から官僚、大学教授にスポーツ界の重鎮。一昔前なら立派な肩書から相応の尊敬を得ていたのに、このていたらくじゃ。
 それにしても政治家の言葉は軽いのう。何かと言えば、発言の撤回。自分の口から出た言葉に責任を持とうともせぬ。あれは失言ではない。政治家としての矜持(きょうじ)がない、単なる妄言じゃ。それにしても目先の利益に理性を失い、肩書にだまされる愚かな人間の多いことか。情けない世の中じゃ。
 そうじゃった! 姫のご回答に感心しており大切な用事を忘れておったわ! 昨日、年金を有効活用しませんかと儲け話があったわ。名刺には「国際年金活用ぼろ儲け機関 花柳支社長」あったな。これは信用できるじゃろう! 近頃は遊びに行く金もないので何か良い手立ては無いかと思案しておったところじゃ。よぉし! 年金を全額預けてみようかな。これでアルバイトもせずに済みそうじゃ! うふふふ。またチャバレー通いが出来るわい!


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