![]() 【第二十幕】 |
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「 | 姫! 三太夫でござりますぞ!」 |
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「 | なんじゃ、三太夫。赤い顔をして。酒でも飲んできたのか?」 |
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「 | 姫! 三太夫は怒っておるのでござりまする! かの日本国の無節操さに腹が立っておるのでござりまするぞ!」 |
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「 | ほう。どういうことじゃ?」 |
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「 | 姫! 日本国はどうなっておるのでございましょう? 10月になればハロウィン。11月に入ればクリスマスの飾りつけ。12月は忙しゅうございまするぞ! クリスマスプレゼントやクリスマスディナーショー。それが終わって一週間もすればお寺で除夜の鐘を聞き、年があらたまれば神社に初詣。そのあとは成人式。そして2月に入れば三太夫の一番嫌いなバレンタインデーでござりまするぞ」 |
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「 | いろいろと楽しいイベントがあって良いではないか。それを何を怒っておるのじゃ。三太夫は、何かというと直ぐに怒るが、もちっと冷静にならねばな。『怒り遅きは大智の人』という言葉もあるぞ」 |
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「 | ほう……。なるほど……。姫! それは、つまり、なんでございましょ。南洋の人はのんびりしているで滅多なことでは怒らないと……。そういうことでございましょ?」 |
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「 | なんじゃ? 南洋……? それは?」 |
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「 | 姫が今、おっしゃったではござりませんか。『怒り遅きはタヒチの人なり』と」 |
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「 |
だいち! タヒチではない! 大智と書いて、だいちと読むのじゃ! 大いなる智慧(ちえ)、仏智(ぶっち)のことじゃ。もうよい、もうよい。で、三太夫は何を怒っておるのじゃ?」 |
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「 |
楽しくイベントをするのは構いませんがな、 神様、仏様に感謝するなら、もっと厳(おごそ)かに真摯(しんし)に行うべきではござりませんか! どこに神様、仏様を敬う気持ちがござりましょう!
まるでお金儲けのためのお楽しみイベントではござりませぬか、これでは。三太夫はそれが悲しくって怒っておるのでござりまするぞ!」 |
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「 |
これ! 小姓の蘭丸! 御殿医の赤壁周庵殿に来ていただけ! 三太夫が恐ろしく真っ当なことを申して居るぞ! 地震や津波の起こる前触れかもしれぬ! 恐ろしいことじゃ。いや、妙なものを食べたのか?」 |
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「 | 姫! それは言いすぎでござりまするぞ! この世の中を憂うる姿こそ真の三太夫の姿でござりまするぞ! 姫! 姫は日本国の、このイベントばかりの社会をどのように思っておいでで?」 |
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「 |
三太夫、落ち着いてよく聞くのじゃ。 今の日本国のありさまは、まるで地獄絵図じゃ。 人々が守銭奴、物欲に翻弄(ほんろう)され彷徨(さまよ)い、他者を踏みつけ、我勝ちに遊び呆(ほう)ける姿は、餓鬼(がき)じゃなあ。 宮本武蔵の 『我、神仏を尊(たっと)び、我、神仏を頼らず』 との言葉が残っている。 偶然じゃが、姫は、その言葉を知るずーっと以前から、 『信じて頼らず』 という座右の銘を、心に念じて生きてきた。 心の内に、一つの信念をしっかり持つことによって、あっちへチョロチョロ、こっちへキョロキョロと、無責任にあがき回ることはないのじゃ。 大小に関わらず、世の中の事件、出来事の根源は、『無関心』といわれている。 姫の言葉でいうと、“無意識・無自覚・無関心”、まさに現在の世の中、この言葉に尽きよう。 恥意識をどこかに忘れ去ってしまった“餓鬼たち”は、あわれじゃのう。 |
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【三太夫覚え帖】 「さすがに姫じゃ。スッパリ物事の本質を申されるわ。それにしても今日の姫のお話は、チィと難しい言葉が多かったな。ルビ(ふりがな)が多かった。世の中、三太夫のように難しい漢字の読める人ばかりではないからな。ま、ところどころ姫の言葉に分からぬところがあるのは仕方ないとして。 それにしても、日本国のイベント騒ぎは見苦しいものじゃ。あんなことにお金を使うんなら、世の中の困った人のために使うべきじゃと思うがな。 あ! しまった! 怒りのあまり肝心なことを忘れておったわ! 今日からチャバレー花柳でバレンタイン前のイベントがあったのじゃ! “ご来店ポイントが貯まるとバレンタインデーキッスのプレゼントがあるかも!?”キャンペーンじゃ! こうしてはおれぬ! 急がねば! ヘーイ! タクシー!」 |
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