【第二十四幕】 |
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「 | 姫! 三太夫でござりますぞ!」 |
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「 | 三太夫か。前から言わねばと思うておったが……その方、腰元たちの評判が悪いな。あの者たちが言っておったぞ。廊下を歩いていたら後ろに怪しげな妖気を感じるのでそっと振り向いたら、柱の陰からご家老がそっと見つめていたとか……。星 飛雄馬の姉・明子か? 腰元の後ろ姿を盗撮でもしておるのか?」
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「 | 姫! 星 明子は電信柱の陰から飛雄馬の姿を見ておるのでござりまするぞ!」 |
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「 | そこを突っ込むか!」 |
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「 | それにマンガ『巨人の星』が連載を終わったのは40年以上前でござりまするぞ! 今の若い人には分かりにくい例えで……」 |
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「 | マヌケ! 三太夫に分かるように言ったまでじゃ。要点はそこではない! いかに三太夫が女子(おなご)にモテぬといえども、ストーカーまがいのことは姫が許さぬぞ!」
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「 | いかに姫といえどもあまりのお言葉! 三太夫は女子にモテまくりでござりまするぞ!」 |
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「 | ほう! それは初耳じゃ。イナゴにでもモテるのか?」 |
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「 | イナゴではござりませぬ! 人間の女子でござりまする! たとえば花柳商店街を歩いておりますとな、若い可愛い女子が三太夫の方に寄ってまいりますぞ。それに買い物などしておる時、女子の方
から三太夫の手を握ってくるのですぞ!」 |
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つまり、三太夫が花柳商店街を歩いておると、アルバイトの女子がポケットテッシュをくれるのであろう。それにコンビニで買い物をするとお釣りの小銭を手渡しする時、片手を添える店もあるのう。あれは好意からではない。マニュアルどおりじゃ」
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「 | ムグ! フグ! ……。姫! ポケットティッシュは、三太夫にだけ2個、くれますぞ! これこそ好意の表れ! 口には出せぬゆえポケットティッシュ2個で思いのたけを……」 |
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「 | セコイ!! ……マニュアルどおりにしておるだけじゃ。三太夫、自分で言うてて情けなくないか?」 |
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「 | ゲッ〜、そ、そんな〜、あ、ア〜ん、ア〜ん、ア〜ん、姫! 三太夫は生まれてこの方、女子にモテたことはござりませぬぞ! 姫! どのようにすればおなごにモテるので? 女子はどんな男に惚れるのでござりましょう! なにとぞ、なにとぞ、教えてくだされい!」 |
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「 | そなた、話がコロッコロッと変わるのう〜。ま、三太夫の涙目に免じて、話はきいてとらそう。 花柳藩の家老という地位にいてさえ女子にモテぬ三太夫が、姫はチト哀れに思えてきたぞ。 三太夫、よく聴くのじゃ〜。 そなたも、いま流行(はやり)の『風評』という言葉に惑わされている人間のひとりじゃのう。 “女子がどんな男(おのこ)に惚れるのか?” その卑しい、もの欲しげな考え方が、その大前提が大間違いである。 どんな男、女子であろうと、好きになる時にはパターンはない。それはホレてしまった、恋してしまったその時点ではまったく気づかんものじゃ。 その恋の熱が冷めた、いうなれば嫌いになったそのときに、相手のすべてが見える、恋という霧の中に隠れていた実像が、パーッと晴れ上がり、ホレていた男のすべてが見えてきて、 “あ、あ、なんで、あんなスカみたいな男にホレてしまったのか。大切な時間を無駄に使うてしまった!” と、まあ、あとからこのような感情を吐露する女子の言葉をよく聞くのう。 世の中を見渡して、あんな女子が、あれだけのエエ男に! てなカップルを見ることもある。 “恋に落ちる”という言葉通り、男も女も恋しているときは、タイプなどはまったく関係ない。 まあ、姫などは、男も女も、ゴチャゴチャとしゃべりまくるような人間、まず、好きにはならんのう。 男も女も口数の少ない、それでいてウィットにとんだ、空気の読める、ほがらかな人が好きじゃのう。 お通夜の帰り道みたいなクラ〜イ人は、女子も男も、姫は嫌いじゃ。 三太夫、恋にパターンはない。 好きになる人間同士にも、パターンやマニュアルなどないのじゃ。 恋するとは、人に好意を持つというのは、実に不思議な心の動きじゃからのう」 |
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【三太夫覚え帖】 「姫は不思議なことを言われておったな。『空気が読める』?? 見えぬ空気をどうして読むのじゃ? 空気に何か文字でも書いておるのか? そういえば、随分以前に女子に『ご家老は空気が読めぬ人でございまする』と言われたことがあったな。そうかぁ……。女子には不思議な能力があって空気に書いてある文字が読めるのじゃな? いやいや、そんなことよりじゃ。姫は分かっておられぬな。コンビニでお釣りを渡す時、手を添えるだけではなく、三太夫の顔を見てニッコリと微笑むのじゃぞ。これぞ好意の表れではないか。 そうじゃ! 良いことを思いついた! 明日、お釣りを受け取る時にじゃ、女子の手をギュッと握ってみよう! 向こうも握り返してくれば、これはもう本物じゃ。良いことを思いついたわい。明日が来るのが楽しみじゃのう! 」 翌日 ギュッ!! キャァ〜〜!!! パァポォ〜〜 パァポォ〜〜 パァポォ〜〜 パァポォ〜〜 |
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