姫 三太夫でござりまするぞ!

【第三十五幕】










 
この物語は、事実に基づき(?)ながらも、大胆かつ壮大に時空を超えた歴史ワールドなのである。
 笑い、時には怒り、また時には涙なくしては読めぬという空前絶後、絶体絶命、以心伝心のパラレル・ショートストーリーともいえる!
   登場人物
    
 (幻舟)
   
三太夫(パラワー人)


姫! 三太夫でござりますぞ!」

三太夫、また2月の登城をスル―したな。バレンタインデーチョコを貰えぬのがそんなに悔しいのか?」

姫! 三太夫は……。いや、チョコなぞ歯牙にも掛けもうさん。あんな西洋のイベントなど……」

三太夫、バレンタインデーを気にもかけない人間が、どうして涙目になっておるのじゃ?」

いや……。そんなことより、ようやく平昌冬季オリンピック・パラリンピックが終わりホッとしておりまするぞ!」

なんじゃ、無事に閉会して安堵しておるのか?」

そうではござりませぬぞ! マスコミはオリンピックの報道ばかり。連日、感動の大安売り。これでもか、これでもかとしつこいばかりの感動の押し売り。三太夫はうんざりしておりました! もっと他にも報道すべきことがござりましょう。それに三太夫はIOCとかFIFAとかの金権体質が大嫌いでございますぞ! あ奴らは、選手をダシにした国際的な興行主に過ぎませぬぞ! スポーツ振興より興行収入が第一に考えているしか思えませぬ! 東京オリンピックの会場査察でIOCのバッハ会長が来日した折、この会場が良いとか悪いとか言っておりましたが『お前、何様やねん!』と思いましたぞ!
 誰が金出してんねん! 今の日本、若い者は失政により正社員にもなれず派遣やアルバイトで低賃金、シングルマザーは掛け持ちアルバイトで子供の服も満足に買ってやれないのに苦しい家計の中から税金を払っておるのでございますぞ! それを何百、何千億円もするオリンピック会場を作るために血税を投入するなぞ愚の骨頂。
 バッハ会長なぞは日本に税金を納めたこともないクセに何を偉そうにほざいておるのでございましょう。東京オリンピックに2兆円? ふざけんじゃねぇ!
 国家の威信? 舐めとんのか、われぇ! 喜んでるは土建業者と政治家ばかりやないか! 何がアスリートファーストか。オリンピックなんぞ、そんなもん学校の体育館とかグランド借りたって出来るったい。税金は、もっと他に使うべきだっせ。日々生活に困っている人や、明日に夢をもてない若い人に、希望の持てるような政策をする、そのために税金を使うべきだがや!」

三太夫、ご高説はもっともである。だが、他者は心にあっても大声で怒鳴らん。善悪の意思表示もせん。誰も自己に関係がないと愚かにも思い込んでおる。
 三太夫、興奮して言葉があっちゃこっちゃに。うろちょるしておるが、どこのお国言葉か分からんぞ!
 しかし三太夫の怒りももっともじゃな。今のオリンピックはスポーツと言うより世界規模の大興行じゃ。成績第一主義になっておるしな。金メダリストには報奨金が出るなど、これではプロスポーツと同じじゃ。アマチュア精神なんぞという言葉は吹っ飛んでしまったな。たしかに感動的なシーンはいくつもあったと思える。
 マスコミの過剰報道で興ざめしたのも事実じゃ。『オリンピックは参加することに意義がある』という名言がある。それなどどこへやら吹っ飛んでしまったのであろう。オリンピックに出て、金儲けしよう!! とでも、考えに変貌したのであろう」

姫! それも三太夫のセリフでございますぞ! 三太夫が興奮して過激なことを言い、姫がそれをたしなめるとパターンが……。いや、そんなことより姫! 質問がございますぞ!」

ホ~ラ! きた! なんじゃ、バレンタインチョコの余りものでもないかという質問か? そんなものとうにないわ」

残念! いや、そんなことではござりませぬ! 姫は若者の貧困についてどう思われますか? 将来の日本を背負う若者が派遣社員や非正規社員で将来に夢が持てない、こんな社会をどぎゃんすれば良くすることができまんねん。教えてつかわっさい」

今日の三太夫は言葉が、もう、ほんまに滅茶苦茶でござりまするがな。いかん。つられて姫まで……。これは花菱アチャコ師匠のギャグであったな。三太夫、質問に答えてつかわすぞ。
 正義感の基本的論理を真顔でしゃべくりまわり、しかも社会の現実を洞察せず、完全に現実から遊離した評論家や、学者等が、彼らはきまって次のようにいう。
『働けばいいんです。働けば賃金を得て、暮らしは楽になる。働かないヤツが貧乏の連鎖を作るのだ! 近ごろの若者は仕事に選り好みをしすぎる、ま、楽して日常を暮らそうなどということが愚かの極みなのだ』
 こんな愚かな言葉を平気で発し、それでも“知的”学者といわれている御仁たちが生存していることに、姫は『このオロカ者め! 目、噛んで死ね!』と、燃え上がる感情を抑えるのに日々苦慮しておるのじゃ。
 若い人らが未来の夢をたくし、日々希望をもって生きてゆく、そのために様々な仕事や社会の矛盾にぶつかりながらも生きてゆくのじゃ。夢や希望は、人間のエネルギーが作られ、明日をまた生きてゆこうと思わせてくれるものじゃ。
 現在の若者たちを見ていると、夢も希望もない。それがゆえに、日々快楽に流され、その場かぎりの暴走行動にふけるのみ。明日に向かって生きてゆこうとする夢も希望もないゆえ、ニッポン国の貧困の連鎖は、とめどなく作られているのじゃ。
 
 テレビで国会中継などを見ていると、上から下まで、庶民がおいそれと買えぬ着衣を身につけ、おまけに居眠り。隣りに座る同僚と雑談。
 国民の生活や安全を身を挺して闘っているという自覚のかけらも皆無。尊敬に値する人間もおらんのう。
 姫の前に出てきて、反論があるならいうてみい! 税金泥棒、給金分、君、ホンマに働いとるんか!
 テレビに映ってるやないか! 居眠りしてたやろう。
お前じゃ!
 一般労働者が仕事中に居眠りできるんか! ええかげんにせい! 貧困と格差社会を作っているのは現政権じゃ! 今日の政治家では、所詮かなわぬ夢のまた夢。
 歌丸! 槍を持て、出陣じゃ! ア、間違うた、蘭丸! 槍を持て!

なこと……いたら、おこられるかも……三夫は……コワイ!!」

恐かったら、謝ったらよいのじゃ。
 今日の講義はこれで終わる!」

☆     ☆     ☆     ☆


【三太夫覚え帖】
「姫も言葉があっちゃこっちゃじゃ。それに歌丸は笑点で有名な大師匠じゃ。あの体で槍は持てぬじゃろうな。
 ま、それはともかく政治家の無能・無責任・無自覚は凄まじい。恐ろしい限りじゃ。平成の天誅組でも現れて成敗してほしいくらいじゃ。
 自分たちの仕事を何と心得ておるのか。庶民の声を真摯に聞くという姿勢が見えぬわ。嘆かわしい!

 どうした蘭丸、城下の商人から訴状が届いたと? なになに? 花柳商店街の近くに全国チェーンの大型ショッピングセンター出店予定があり、商店主一同、今後に不安をもっております。ご家老のお力でなんとか妙案を、か……。うーん、たしかに大型ショッピングセンターは広大な駐車場が無料で使えるし、魅力的な商品が数多く揃えられておるからな。商売に影響が出るのは必至じゃ。でもなあ、この前、ショッピングセンター出店説明会の後、先方の社長から晩ご飯をごちそうになったしなあ……。これからも接待があるかもしれんし……こまったなあ、どうしたものかなあ。そうじゃ! 気分転換にパチンコにでも行くか! 頭をスッキリさせてから考えよう。それに商店主の方でもなにか考えるじゃろう。今日は勝てるかな? 勝てたらいいな! 蘭丸! 出かけるぞ!」

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