姫 三太夫でござりまするぞ!

【第三十六幕】










 
この物語は、事実に基づき(?)ながらも、大胆かつ壮大に時空を超えた歴史ワールドなのである。
 笑い、時には怒り、また時には涙なくしては読めぬという空前絶後、絶体絶命、以心伝心のパラレル・ショートストーリーともいえる!
   登場人物
    
 (幻舟)
   
三太夫(パラワー人)


姫! 三太夫でござりますぞ!」

この忙しい時に何をしに来た、三太夫。その方が登城すると姫の仕事がはかどらぬぞ」

姫! 三太夫のおかげで藩政が上手く運営できておると、もっぱらの噂ですぞ!」

姫はそんな噂聞いたこともないが、誰が言っておるのじゃ?」

………姫!。質問がございますぞ!」

誰もそんな噂をしておらぬのじゃな! 相変わらずの見栄張りじゃのう。さっさと質問をして早々に立ち去るのじゃぞ」

姫! 朝のワイドショーを見ておりますと、不思議なことを言っておりましたぞ!
 星占いてなコーナーで『ヤギ座の方、ごめんなさい! 今日は最悪な一日になりそうです』とか言うておりました。
 『ごめんなさい』とはなに事でございましょう! 運命とか運勢とかは神様、仏様がお決めになることではございませんか! 1時間先はおろか、1秒先のことさえ分からぬ常人が、何をたわけたことを申しておるのでございましょう! 『ごめんなさい』と謝るなぞ、お前が人様の運命を決めてるのかい! 思いあがるのもエエ加減にせい! でございますぞ! それから、ラジオ番組で、出産直後のお母さんへのインタビューがありましたぞ! 生まれてきた赤ちゃんにコメントを求められると、ほとんどのお母さんが『生まれてきてくれてありがとう』と言うておりました。
 赤ちゃんは授かりものではございませぬか! 神様、仏様の按配によって授かったのではございませぬか! 赤ちゃんにではなく、神様、仏様に感謝するのが筋でございましょう!」

三太夫、エラク熱弁じゃのう。それに神様とか仏様とか、三太夫の口からそんな言葉が出て来るとはな。怪しげな新興宗教にでも感化されたか?」

姫! 三太夫は神様、仏様は信じておりますが、宗教は信じておりませぬぞ! 神様、仏様は冠婚葬祭のためにあるのではなく、ましてやクリスマスイベントなどのために存在するのではございませぬぞ! 人が正しく生きるための道しるべとして、おわすしますのでございます!」

三太夫、拾い食いでもしたのか? 熱は無いか!」

姫! 三太夫は怒っておるのでございますぞ! 怒り心臓でございますぞ!」

心頭じゃ! 『いかり しんとう』と言うのじゃ!」

心臓では無く、心頭でござるのか! あぁ、しんとう」

それを言うなら大阪弁で『あぁ、しんど』じゃ。ま、ちぃと三太夫らしいボケが出たか……。で、三太夫、何が言いたいのじゃ?」

日本国を見ておりますると、ひどい事件ばかりでございますぞ! 政治家や官僚は私利私欲でやりたい放題。大企業は不祥事の連続で社長のお詫び会見が続出。
 庶民は庶民で煽り運転やパワハラにいじめ。挙句の果てには可愛いわが子に暴行を加えたり、殺害までする事件なぞも珍しくはありませぬぞ! 見た目は人間に見えますが、その内実はすでに人間の本性を失った鬼畜で満ち溢れております! それと云うのも世の中に無神論者が満ち満ちているからではございませぬか! 神様、仏様と天を敬う気持ちが少しでもあれば、悪事を働く人間はもっと減ると思いますぞ! 三太夫は宗教儀式なぞにはまったく興味はございませぬが、神様、仏様、天を敬う気持ちだけは持っておりますぞ! 姫! どうすれば世の無神論者に神を敬う心を伝えることができるのでございましょう!」

三太夫、春になって温かくなり脳味噌に虫でも湧いたのかもしれぬな。あとで赤壁周安先生に薬を調合していただこう。まあ、とにかく三太夫の質問に、姫の考えを伝えてやろう。
 生まれた赤子を初めて抱きかかえたその瞬間、『生まれてきてくれてありがとう』という、言葉にならん感情が込み上げてくるものじゃ。誰が言わせているわけでもないこの感情が、子どもを育てるためにも、子と親との関係性を育てるためにも、とても重要なことなのじゃ。
 しかし、人というものはどこかに本人主義的な感情もあり、子どもが育つ過程の中で、愚かな人間は、初めて赤子を抱きかかえ、言葉に表せないような感動は月日とともに薄められていく。そして親子の関係性も変貌し、他人より無情であったり、人間の残酷性のみが露出、いわゆる虐待や育児放棄も現れる。親だけでなく、子もそれなりに成人すると立場が逆転、年老いた親に牙(きば)を剥(む)く。一言でいうと、『弱い者いじめ』、それらの事案は、人間の持つ残酷性の要素とでもいうことか。しかし、それは誰でも内心に持っているが、いかにそれを自己コントロールできるか、できぬか。信仰などにまったく関係ないのじゃ。
 三太夫、人生は短いぞ。その短い人生をいかに生きるか。短い人生の中で『幸せ!』と感動したり、地獄のどん底に叩きこまれるような『不幸』な目に遭ったりと、人間、誰でも幸せばかりでなく、また不幸ばかりでもない。いいことも悪いことも、みな遭遇するのじゃあ。その覚悟を心に生きていくのが真の教養というもの。幸も不幸も、生ある人々には必ずふりかかるもの。そして、なに事にも永遠というものもない。
 豪邸や豪華な暮らしをひけらかしている人間をよく見かけるが、愚かなことじゃ。地震など天災に遭遇すれば、一瞬に消え失せる。自然の脅威は偉大なのじゃ。神や仏さんにお願いする前に、人間はもっと謙虚にならねばのう。
 もの事を深く、広く、世の中の出来事を我がことに引き寄せて考えること。姫はそのように思考して生きているのじゃ。」

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【三太夫覚え帖】
「なるほどな、人間はもっと謙虚にか……。その点、三太夫はなんの問題も無いな。謙虚が服を着て歩いているようなものじゃからな。花柳藩の家老と云う立派な肩書もあるし、姫に質問したらすぐに回答もいただいておるので、すっかりモノ知りになったしな。ちょっとしたインテリじゃ。花柳大学の教授に推薦されても良いくらいじゃ。パワハラとセクハラは時々してしまうがな。ま、それは棚にあげて。
 社会的地位もある、教養もある、宝くじは毎週買って神棚に上げているので、いつか金持ちになるだろうし、加えてこの謙虚さじゃ。三太夫は間違いなく立派な人間じゃわい……ふふふ」

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