【第三十七幕】 |
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「 | 姫! 三太夫でござりますぞ! 三太夫は毎日、怒り心臓でございますぞ!」 |
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「 | それをいうなら、怒り心頭じゃな。どうせ暇つぶしにテレビのワイドショーでも見て怒っておるのじゃろ」 |
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「 | ムグッ! 図星!」 |
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「 | テレビなど見ている暇があったら家老職の仕事をせよ。もっとも三太夫がおらぬ方が作業が、はかどっておるがな。滅多に登城せぬ三太夫に代わりに決裁書類のハンコは小姓の蘭丸に任せておるが、家臣からは好評じゃぞ。部下が企画書を出しても、三太夫のコメントは『頑張ろう』と『同感』の2種類だけじゃ。しかし蘭丸は的確なアドバイスを書いておるぞ。とても参考になると臣下が喜んでおるわ。蘭丸に家老職を任せるかのう……」
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「 | 姫! 家老は経験と品格! 若い蘭丸にそのような力は……」 |
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「 | 三太夫のどこに経験と品格があるのじゃ? その点、蘭丸はインテリの上に物腰も柔らかく言葉使いも丁寧じゃ。仕事もできるしな。家臣だけでなく腰元の評判も上々じゃ。セクハラ・パワハラの三太夫とも大違いじゃ」 |
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「 | 姫! それはさておき、三太夫はワイドショーを見て、怒りが収まりませぬぞ! 政治家の腐敗。国家を預かる行政トップの腐敗。警察の不始末。スポーツ界の不始末。しかも問題を起こしているのは権力のトップですぞ! いったいぜんたい、こんな不埒(ふらち)なことで人の上に立つ資格がございましょうか! 三太夫は、これを権力の根腐れと云っておりまするぞ!」 |
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「 | 三太夫、どの口がそんなことを言わせるのじゃ? いまさっき、蘭丸の話をしたばかりではないか? 人の振り見て我が振り直せということわざを知らぬのか? まさに三太夫のためにあることわざではないか? 家老職という地位にあって、人様の不始末を見てわが身を振り返るということは無いのか?」 |
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「 | ムグッ! フグッ! 姫! 質問がございまするぞ!」 |
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「 | ほら~きた! またいつものパターンか。まぁ、良い。聞いてつかわす。何なりと質問せよ」 |
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「 | 姫! 今、日本国では不埒な事件が続出ですぞ。メーカーはデータ改ざん、体操・アメフト・レスリングなどのスポーツ界でもパワハラ問題のオンパレード。官僚は地位を利用して裏口入学だの接待だのと私利私欲に走り、中央省庁でも障がい者雇用の水増し。それをマスコミは、事件を面白おかしく報道し、コメンテーターはありきたりのコメントを連発。 これは一部の人間、一部の団体の問題ではなく、日本全体で根腐れが起こっているのではございませぬか! 犠牲になるのはいつも立場の弱い人、そして負の遺産を押しつけられる若い世代ですぞ! 三太夫はもう、怒りで目も見えなくなる程でございますぞ! なぜ、こんなことになってしまったのでしょう? どうすれば良いのでございしょう! 姫のお考えをぜひ、お聞かせ下さいませ!」 |
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「 | 三太夫は、どこか憎めんオノコよのう~と、そなたのことを想い描いてみると、ケロッとしたところと、妙に熱血だったりと、ま、早い話……ワケワカラン……オノコよのう~。 さて、三太夫の問いかけに、あれこれひとつずつ答えてやりたいが、三太夫の問いかけすべてに通じるものがある。それをまとめていうと、ニッポン人が元々持っていた『恥意識』が、ここ5~60年ほどの間に摩滅してしまった。 『恥意識』の中には、人としての人情、義、論理的思考、他者に対する遠慮や思いやり……等々、いまさら口に出して言うのさえ、姫は恥ずかしい。 『恥意識』をいつの間にやら失ってしまったのは、戦(いくさ)というのか、ま、早い話が戦争じゃのう。 国家のためと、ひもじさにも耐え、大切な人を失い、犠牲に犠牲を重ねた結果、敗戦!! 『耐えがたきを 耐え!』と、エライ人の一言ですべてパー。耐えがたきを耐えたのは、無辜(むこ)の民。 弱い人間ばかりが耐え抜いて生きてきたのに、エライさんの一言で、な~んもなかったこととなった。 あの瞬間に、ニッポン人の多くの人々は、自分あっての他人や、いや、他人は他人や! とにかく強者になること、強者になって自己を守る、自己本位でなければ、誰も助けてはくれん! と、敗戦の結果、真から我が身に染み、応(こた)え、生きぬいてきたのじゃ。 その結果、自分に甘く、他者には無関心、簡単にかいつまんで言うと、ここであろう。 言葉も貧しくなった。“ヤバイ”と一言で、どんなときでもこれのみ。怖いときも、美味しいという気持ちを表すときも、なんでもかんでも“ヤバイ”。心が貧しいのう。 しかし、姫は、こう考えるのじゃ。 他者よりも異常に多く、他者よりも大きな家を、他者よりも、他者よりも幸せにと、目先の欲にかられている人間は、これから先、もっともっと増えていく。 今日の現実を見ていると、心の貧しい薄っぺらな世の中に日々、見える。 観光立国と銘打って、国家のスケジュールに乗せられ、金儲けに、血眼となっているあさましい自己主義者の未来は崩壊の道を、すなわち、まるで坂道にボールを転がすように、ゴロゴロと音を立てて落ちて行く。 この夏、異常な暑さに、 『生命に関わる危険な暑さです、クーラーをつけてください!』 と、連呼する報道。 国民年金とやらのわずかなお金でつましく生きている年老いた人に、“クーラーをつけろ!”と平気で広報する前に、考えなければならんことがある。クーラーを買う金はどこにあるのじゃ。電気代を誰が払ってくれるのじゃ~。 姫は大声をあげて言うぞ!「ヤバイ!!」 クーラーなしで熱中症とやらで、いっそ死んでしまいたい。こんな無責任で薄情な国に生き長らえるならと! 先だって、姫と同じ言葉を発して、泪ぐんでいたご老人がいた。三太夫、これは「ヤバイ」ぞ! 財務官僚の局長が、国会証人喚問で引っぱり出され、様々の質問に対し、『法に触れるから……』と、証言を拒否した。本人自身、悪事に手を突っこんだという意識があったのだろう。 そこで、大阪地検が関係省庁のガサ入れ。物々しくパレードしてみせたが、“証拠不十分”で不起訴!! 市井の人々の税金をごまかし、私したのに、本人罪の意識もあるのに……それでも地検は証拠不十分で御赦免か! 昔、こんな唄があった。 『♪嬉しがらせえ~て~ 泣かせて消えたァ~』 こんなんばっかり繰り返していくと、先に姫が述べたように、自己主義、恥知らずの文化となっていくのじゃ。 ああ、いかんいかん、今日の姫はやや感情的になりすぎた……。 三太夫! よいな、世の中は一人の人間が動かしているのではない。 他者がいて、自分が生きているということ、そして『恥意識』を忘れぬようにのう~」 |
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【三太夫覚え帖】 「なぁるほどなぁ、姫のご意見はいつも参考になるなぁ。 恥意識が無くなったとか、人より良い暮らしをしたいという自己中心の考えとか、他の人がいて自分が生きているということかぁ。すなわちこれは、人様のことを考えず自分中心の考えが浮かんだ時、それを浅ましいと恥じる心が必要と云うことじゃな。よし、三太夫は姫のお言葉を肝に銘じ、今日から正しい心で生きるぞ! おお! そうじゃった! 姫のお言葉に感心して、すっかり忘れておったわ! 今日は花柳商店街で宝くじを発売する日じゃ! 一等賞は百万円であったな! 家の冷蔵庫が壊れて困っておったのじゃ。テレビも買い替えたいしな。サイクロンの掃除機もほしい。家電製品を買い揃えたら、残ったお金でチャバレーにでも行くか! よし、宝くじ売り場に一番に並ぼう! 先に並んでる人がいたら押のけてやるぞ! 今日は良いことがあるかもな!」 |
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