幻舟のよろず相談劇場 (2)


 
 どんな問題でも、ひとりで悩むより、他者に聞いてもらうと、フッと、モヤモヤが晴れたり解決のヒントが見えたりすることが人生にはよくあります。
 他者から知恵を得ることも大切で、無知こそ人生の損失です。
 本コーナーは、ホームページを通して、人生経験豊かな花柳幻舟が多岐にわたる悩み相談に真剣に答える自由空間です。ひとりで悩まないで、ぜひメールを!



<幻舟さん、どう思います。ちょっと教えて!>
 
  私は恋愛結婚3年目の32歳。母と妻と私と、三人暮らしの男性です。
 私の悩みは、いや悩みを越えて、心身にも影響を及ぼすほどの大問題を抱える日々を過ごしている者です。
 実は、妻(28歳)と、私の母(59歳)の問題です。
 妻と母がまるで犬猿の仲というのでしょうか、常に争いの連続。口ゲンカはいうにおよばず、互いに無視しあうのはいつものこと。
 妻の作った料理などにいたっては、ひと切れ口に入れると同時くらいに、味付け、食材の切り方、盛り付けに至るまで、いやみタラタラ。
「〇〇家には、〇〇家の味があるのよ!」
 と、たいした家柄でもない私どもなのに、妙に肩ひじ張って、能書の大演説。
 結婚はじめのころは、妻も黙って聞いていたのですが、近ごろでは、口ごたえもしますし、ある日など、
「そんなにお口に合わないのなら、ご自分でお作りください!」
 という始末。
 今、会社のほうも不況で、大変です。ぐったり疲れて帰ってくると、二人の争いの愚痴(ぐち)を、母の部屋へ、私たちの寝室へと、左右に引っ張られ、落ち着くヒマもなく、くつろぐ場もありません。
 子どもでもできたら‥‥と思うこともあるのですが‥‥。
 私としては、父の顔も覚えていないころに亡くし、母ひとりが働いて私を育ててくれた、母は大切な人です。
 母は、“私が息子を育てたのよ。あとから来た女に取られてたまるか!”という熱い思いが、妻に対して、主張と怒りさえあるのかもしれません。
 妻は、
「私をとるか、お母さんをとるか、どっちかにしてよ!」
 と、近ごろ二人だけのとき、よく迫るようになりました。
 私は、母をひとりにして、妻を選ぶという、邪険なことはできません。
 したがって、いずれ 私は妻と離婚ということになってしまうのでは‥‥。
 どうしたらよいか、幻舟さん、教えてください。
【東京都在住・商社マン】


<ハイ お答えしましょう!>
 
  嫁と姑問題は、あって当然、ないのが不思議と思ってください。
 特に、あなたのお母さんは、若くして夫を亡くし、女手ひとつであなたを立派にお育てになった。その自負たるや、他者からは想像を絶する、計り知れないものと推察いたします。
 あなたは、立派です。いざというときは、惚れた妻より、かけがえのないお母さんを選ぶとおっしゃるあなたは、おつらいでしょうが、その選択には、私個人としては、立派だと考えます。

 私も、ずーっと以前、結婚の経験があります。
 当時の私は、無知で、読み書きもできない無学者。しかも、旅芸人の生活しか知らないで育ってきた私には、家長制度が残る、古い伝統ある夫の家族の中で浮き上がり、孤立無援。
 私が初めて 夫に、自分のつらい心中を口にしました。私としては、夫に愚痴るしかなかったからです。
 夫からは、一言のもとに、
「君はひがんでいるんや。そのひがみをなくさないと、みんなと仲良くしてもらえないよ」
 と返ってきました。
 私は、家族と縁を切って、二人で暮らそう、などと、大それたことを言った訳ではないのです。
 当時、読み書きもおぼつかない私が、必死でお礼状を書いた、彼の親戚の方に、法事の席上で、
「あんた、えらいネ。“かなクギ文字”で、よくハガキくれるネ」
 といわれ、席中、大笑い。
 そのとき、夫も、みんなと一緒に笑っていました。
 私の唯一の味方と思っていただけに、夫との距離は はるか遠いものだったと自覚したというのでしょうか。そんな出来事が数々重なって、ついに高学歴者である夫に対する憎しみさえ湧いてきてしまったんですネ。
 
 今なら、もっと夫に向き合って、自分の孤独感や疎外感、旅芸人ゆえのいじめに耐えられず、学校に行けなくなり、読み書きもできないことも、正直に話したでしょう。
 差別によって、幼いころから受けつづけた心の中に、常に 血が噴いているトラウマも 話せたでしょう。
 しかし私は、何を、どう話していいかも、当時、わかりませんでした。
 私自身も無知、そして夫自身も想像力が 希薄だったのかもしれません。
 今ときおり思います。二人きりでどうして本音を交わさなかったのか…と。無知でした。

 ご夫婦で、ゆっくり、話し合ってほしい。
 あなたが、お母さんへの感謝の思いがどんなに、広く深いものか、それは、お母さんとの幼いころの暮らしを話し、ご自分の命と同じくらい大切な人なのだということを、ゆっくり話すしかないと、私は思います。
 あなたのようなやさしい人、いまどき貴重ですよ。
 そのやさしさは、妻に対しても同じこと。どちらかを選ぶ、という、比較対照などする愛情ではないと、私は思います。
 人は、突然大人になりません。
 人間は、動物の中で一番、軟弱な生き物です。
 育ててもらわないと、ひとり立ちは無理。
 育てるほうも、片手間ではとてもできない業(わざ)です。
 お母さんを感謝する心は決して忘れないで。
 お母さんと妻と、どっちが大切? 愚問すぎます。次元が違います。
 お母さんとあなたとの、これまで暮らしてきた歴史をゆっくり、妻と二人だけで話し、愛情と敬愛について、理解してもらってください。


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