幻舟のよろず相談劇場 (2)

                   

 どんな問題でも、ひとりで悩むより、他者に聞いてもらうと、フッと、モヤモヤが晴れたり解決のヒントが見えたりすることが人生にはよくあります。
 他者から知恵を得ることも大切で、無知こそ人生の損失です。
 本コーナーは、ホームページを通して、人生経験豊かな花柳幻舟が多岐にわたる悩み相談に真剣に答える自由空間です。ひとりで悩まないで、ぜひメールを!




<幻舟さん、どう思います。ちょっと教えて!>
 幻舟さんは“復讐”を、本気で考えたことがありますか。
 “復讐”してやりたいのは、夫と、夫の家族です。
 私は、実の両親の顔も知りません。養女として育てていただいた養父(3年前に養母は他界)と、養父の実子である義理の妹がひとりいます。
 どうして、実の両親を私が知らないのか……。
 私は、某所に捨てられていたのを、乳児院で育てられ、そこから子供のいない現在の養父母にもらわれていったそうです。
 私が養子縁組をして2年後に、養父母の間に女の子が生まれました。
 私が養女であることを初めて知ったのは、高校進学のため、自分で市役所に行き、戸籍謄本を受け取ったときのことです。
 養女だと知ったことに驚きましたが、実の両親の名前の欄が、空白になっていたことに、一瞬にして孤独の淵に蹴(け)落とされた気分でした。
 養父母は、とてもやさしい人で、私のような者を実の娘と分け隔(へだ)てなく育ててくださったことに、その日から、ありがたさと同時に、義理の妹に対しても遠慮が生まれ、ま、いうなれば他人行儀な感じが家庭内でギクシャクとしていき、高校が自宅より遠方となり、高校の近くのアパートでひとり暮らしを選びました。

 進学はあきらめていたのですが、養父母の強い情愛で入学しました。
 大学は東京、アパート暮らしとなり、捨て子だったという自分の成育歴のためか、私はいつの間にやら無口になり、暗い性格になったのか、友人はできません。
 そんなとき知り合ったのが、現在の夫です。
 ほがらかで、いい意味でノー天気。次第に、私自身の心も開き、大学卒業と同時に、結婚しました。
 自分の成育歴については、結婚前に夫には話しました。
 一瞬、顔色が変わったのですが、しかし、間髪を入れず、
「つらい思いをしたんだね。君のせいじゃあないんだからね。子供を産んで、自分の愛情を与えてやれば。僕が君を守っていくよ」
 と、いってくれ、私も巡り会えてよかったと、心底思い、当然のように、養父、義理の妹も喜んでくれ、皆に祝福され結婚しました。
 ところが、結婚して、夫の両親との同居の中で、なにか事あるごとに、
「捨て子だから、こんなことのしつけもしてないんだ!」
 と、面と向かって義父母は口汚く吐き捨てるようにいいます。
 そんなとき、夫がいても、その言葉をさえぎるでもなく、私の側に立って、両親に抗議してくれたことはありません。それどころか、
「生まれて何週間目だったっけ、乳児院に捨てられてたんだ! オイ、なア〜」
 と、夫は堂々といい放ちます。
 ご近所のお茶のみ友だちなのか、義母の友人が、ときおり来宅し、雑談の折に、
「捨て子って? ということは、産みの親はどんな人間なのか……ひょっとして、犯罪者? 強盗だったりして! ウッハッハッハ!」
 小さな声で話しているつもりなのでしょうが、私の耳には筒抜け。二人顔を見合わせて高笑い……。
 夫にそのことを話しても、真剣味はまったくありません。
「事実なんだろう。戸籍もそうなってるよ! やっぱり、ひがみっぽいね。本当のこといわれてるのに……」

 私は生まれて初めて殺意さえ覚えました。
 恐ろしい殺意でした。一家皆殺しにして、火をつけて……とまで……。

 幻舟さん、教えてください。
 私は誰にも愛されていない、単なる捨て子ですか?
 復讐は悪いことですか?
 私、そのものの存在が、周りの人らに迷惑をかけているのですか?
【奈良県在住 30代後半 主婦】



<ハイ お答えしましょう!>
 世の中に、存在していることが無駄だとか、邪魔とかという人はいません。
 みんなそれぞれ、なんらかの形で役にたっているものですよ。
 私自身、旅回りの芸人の子として生まれ、いじめと差別により学校にもろくろく行けず、極貧の日々を送ってきました。
 芸人を廃業してからは、無学者ゆえに、また、世の中からはじき出されました。生まれて初めてやさしい言葉をかけてくれた人と、私は結婚しました。
 旅回りの芸人の悲惨さを、感覚的に理解してくれたのでしょう。しかし、私の心の中に受けた、深くえぐり取られ、日々血を噴いている「キズ」は、見えてはいなかったようでした。
 ことあるごとに、身体を固く、心を閉じていく妻の“トラウマ”については、夫にはわかっていなかったように思えます。
 私自身も若かった。今ならその人とゆっくり話せた。子供のころから受けた世の中の差別を話せた。その人も、聴いてくれたかもしれません。
 さて、あなたの、まず、皆殺しにしてやりたい、という激情は、わかりすぎるくらいわかります。
 私だって、何度もありますよ。
 同志面(づら)し、友人面し、私が一番困難なとき、裏切り、消えていった何人かの人間を、八つ裂きにしてやりたい感情、今も変わりませんよ。
 夜中に目が覚めた折など、泪を流し、明け方まで一睡もできず、身もだえ、怒りを抱えて、自分自身をなだめ、自分自身で抱きしめて、生きています。
 あなたが復讐に燃えて、一家皆殺しをしたとき、赤ちゃんのときから育ててくださった養父、そして、義理の妹であっても、それらの人たちへも大きな悲しみと、ダメージを与えるばかりか、メディア・マスコミが面白おかしく書きたてる今の世の中の風潮をご覧になれば、およそ結末はおわかりでしょう。
 悔しいでしょう、もって行き場のない孤独感に身もだえておられるでしょう。しかし、復讐は、復讐の連鎖でしかありません。あなたのようにやさしい人は、どんな正当な理由があろうとも、非合法の復讐をしたあとの感情は、きっと、ご自分に戻ってきて、自己を責める結果となることでしょう。

 私のアドバイスは、一日も早く正式に離婚をすすめます。
 人生、まだまだやり直しも、生き直しもできるんですよ。
 養父や、義理の妹さんにも、この間の話をして、離婚することに、応援は無理でも、理解してもらうというのも、再出発のためには、いいやり方だと思います。
 私もそうですが、大切な人に、切ない話や、苦しい話、悲しい顔は見せないのです。
 だから、いつも元気で、いつもサービス精神のみで生きています。
 本当は、腹の立つことも、話したくない人もいるんです。
 しかし、他者は、表面しか見ません。
「あんなに元気そうにしていたのに、いつも明るくて……」
 などという方が、いきなり自殺や凶行に及び、重犯罪を犯す人のニュースを目にします。
 我慢強い人間は、溜まりに溜まった我慢と、鬱積(うっせき)した心のマグマが大爆発することもあります。
 だから、その心ない人たちの中にいては、あなた自身、危険です。人間には、我慢の限界というものがあるんですから。

 今日は、12月14日、『元禄忠臣蔵、討ち入りの日』です。
 喧嘩両成敗(せいばい)という武士の法度(はっと)を国家が破り、一方だけが打ち首となり、かたやお咎(とが)めなく、見舞いまでいただいた。この“お裁き”への抗議として、討ち入りを決行。忠臣蔵は、単なる武士道の美談ではなく、国家権力に向けての“抗議”、怒りの“警鐘”だと、私は受け止めています。

 離婚という行為によって、あなたの真を明らかにする、あなたの人権を回復させる、復権の闘いにしてほしい。
 夫とその一家にとっては、寝耳に水、行く場もない女が、と上から見下ろしていた連中に、堂々と、人間の尊厳を知らしめる離婚訴訟を起こすべきだと、私は考えます。
 もちろん、これ以上“キズ”つけられるいわれはないのですから。弁護士を間に、依頼することをすすめます。
 弁護士を雇うお金がないのであれば、裁判所に相談し、法律扶助協会の制度がありますから、手続きをすれば、お金が今なくてもいいのです。
 人間、鬼にも蛇にも、また、仏様のような心にもなれるもの。
「朝のこない夜はない」等々、私の言葉を思い出して、そんな、非情な地獄から、1日でも、1時間でも早く出ることをおすすめします。
 いつでもお手紙下さい、待っていますからネ。








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